第22話 ジャスミンと図書室 3


 殺させる? なんであたしが?


「あたしが? なにかしたの?」


 そのとき、急に人の気配がして振り返った。


「エミリー!」


 涙ぐんだジャスミンが、こちらへ向かって小走りでやってくる。


「ジャスミン…………」


そして、その後ろに隠れているのは……。


「……ソニア」


 ジャスミンはあたしを強く抱きしめる。


「よかったー! また中で倒れていたらって、不安だったの。アマンダのこともあったし」


 ジャスミンの腕の中で、あたしは着物姿のまりかを探した。だけどまりかはもう消えていた。


 図書室の空気はまだ重く湿っている。


「私がエミリーを図書室に誘ったのよ……これでなにかあったら、どうしようかと」


「ジャスミン心配しすぎよ。あたしは大丈夫だよ」


  後ろからソニアが話しかける。

「エミリー……誰かと話してた?」


 彼女は心配そうにあたしを見つめた。ソニアの声にはどこか疑いが混じっている。


「え……誰もいないよ。他のクラスは授業中だし」


 まりかの存在を話したいと思ったけど、騒ぎになるのは目に見えていた。特にジャスミンは興奮しているし。

「さっき声が聞こえたんだ。エミリー、なにか困ったことあった?」


 ソニアはなにか違和感があるようだ。


「ソニアったら、そんなことどうでもいいわ。エミリーが無事ならね。ごめんね、図書室に鍵がかかってしまったのよ」


「そうなんだ。本を探してて全然気づかなかったよ」


 あたしは髪をくるくる指で触りながら、苦笑いをした。そんなあたしの指先をソニアがじっと見ていた。


「ちょっと廊下の掲示物を確認しようと外に出たらね、ガチャって音がして扉が開かなくなったのよ」


「古いからな、ここも」


「ごめんね、エミリー。私の扉の開け方が強かったのかな? 鍵が勝手にかかるなんてね」


 ジャスミンは本当に申し訳なさそうだ。


「ノックしたのだけど図書室は広いから、奥にいると聞こえないわよね。それでソニアに鍵を取りに行ってもらったの」


 ソニアは肩をすくめる。

「ジャスミン、エミリー。さあ、もう戻ろう。皆の感想文の本はとりあえず……」


 扉の方を見るソニア。


「入口にある、司書さんのお勧めの本を少し借りていこうか。あとは寮のラウンジにも本はたくさんあるし」


「いいアイデアね! 自習の時間も終わっちゃうし。急ぎましょ」


 ジャスミンも賛同し、三人で図書室の出口

に歩き出したとき……背筋がゾクっとした。


『明日もここで会えるわね、絵梨花お姉ちゃん。とても大事な話があるの』


 まりかの幼い声が、なぜか直接頭に響いた。


「おぉうわぁ!」


 あたしは変な声を出してしまう。


「どうしたの、エミリー?」


「な、なんでもないの! 顔に虫が止まったと思ったの」


 あたしはなんとか誤魔化した。

 いやよ! 無理無理。絶対に明日、図書室には行かないからね。

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