星の茶葉と夜の猫

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星の茶葉と夜の猫



むかしむかし、夜にしか開かない 「星茶屋(ほしぢゃや)」 というお茶屋さんがありました。

このお店では、普通のお茶ではなく、「星の茶葉」から作られる特別なお茶を出していました。


星の茶葉を煎じて飲むと、ひとときだけ願いが叶うと言われています。

でも、お店の場所は誰にもわからず、たどり着けるのは 本当にお茶を必要としている人だけ でした。




ある夜のこと。


ひとりの少年が、町はずれの道をとぼとぼと歩いていました。

少年の名前は リオ。 大切に育てていた猫の ミミ がいなくなり、何日も探していたのです。


「どこに行っちゃったんだろう……」


リオがため息をつくと、ふいに 黒い猫 が目の前に現れました。

その猫は 夜のように黒い毛 をしていて、まるで星空のかけらをちりばめたような瞳をしていました。


「こっちへおいで」


黒い猫はそう言うように、静かに歩き出しました。

リオはふしぎと怖くなくて、そのあとをついていきました。


しばらく歩くと、リオは 見たことのない小さな茶屋 の前にいました。

提灯には 「星茶屋」 と書かれています。


店の中には、白い髪の ふしぎなご主人 がいました。

ご主人はにっこり笑い、湯気のたつお茶をリオの前に差し出しました。


「さあ、飲んでごらん」


リオは言われるままに、お茶を一口飲みました。


その瞬間—— 胸の奥がふわりと温かくなり、星がきらめくような気持ち になりました。


そして目を閉じると、どこか遠い場所で、かすかに ミミの鳴き声 が聞こえたのです。


「ミミが、いる!」


リオは勢いよく立ち上がりました。

ご主人は静かにうなずきます。


「お茶が、君の心にある 大切な記憶 を教えてくれたんだよ」


「ありがとう!」


リオはお店を飛び出しました。


すると、黒い猫が再び現れ、夜の道を案内するように先を歩きました。


リオはそのあとを追いかけて、町の外れの 古い灯台 へとたどり着きました。



灯台のふもとに、小さな白い影がいました。


「ミミ!!」


ミミはリオを見ると、うれしそうに走り寄ってきました。


「よかった……! もうどこにも行かないでね」


リオはミミをぎゅっと抱きしめました。


ふと振り返ると、黒い猫はどこにもいませんでした。

でも、遠くの空に、ひとつの星がきらりと輝いていました。


—— それはまるで、黒い猫の瞳のようでした。




翌日、リオはお礼を言おうと 「星茶屋」 を探しました。

でも、昨夜あったはずの場所には 何もなく、ただの空き地 が広がっていました。


あの 不思議なお茶屋 は、もうどこにもありませんでした。


でも、それ以来、リオは 雨の日や夜空を見上げるたび、かすかにお茶の香りを思い出す のでした。


—— それはきっと、またいつか「星茶屋」にたどり着くための道しるべなのかもしれません。

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星の茶葉と夜の猫 sui @uni003

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