第14話 燃え上がる前に

 シロハはクロカを背負って、真っ暗な穴までいっしょに来てくれた。

「……ありがとうございます」

 ど、どうしよう。

 というか、あんな重たい話のあとで私はどうするのが正解!?

 なにもしなくていいのか、なにか話すのがいいのか……。

「……ねぇ」

 シロハに声をかけられた。

「な、なんでしょうか?」 

 なにを聞かれても、きまずくなる予感しかしないけど……。

「明日、来るの?」

「えっ?来ますけど」

 シロハは「えっ、えっ」と動揺している。

 あれなんかまずかったか?

 答えやすい質問で助かったと思ったんだけど、まさか空気よめてなかった…?

「あっ、いや、いいのよ。……むしろありがとう」

 ずっと暗かったシロハの表情が、少し明るくなった。

「じゃあね。また待ってるわ」

「師匠をお願いします」

 私はぺこりと頭を下げてから、真っ暗な穴にとびこんだ。


* * *


「……ゆかりん、帰った?」

 シロハはビクッと肩をゆらして目が点になる。

「ク、クロカ!?起きてたの?」

 クロカは半目をこすりながらあくびをする。

「しばらく前から話は聞いてたけど、動ける元気はなかったから……」

 シロハはクロカを背中からおろそうとする。

「あ、まって。話す元気はあるけど、動く元気はないから」

 クロカはピョンッと背中をのぼった。

「わかったわよ。今日は疲れたでしょ、もう寝なさい」

「んー」

 シロハは家に向かう。

「……いろねのこと、話したんだな」

「……嫌だった?」

 クロカはゆるくほほえむ。

「いや、いつか話すことだったろうし、大丈夫」

 夕日が2人を赤く照らす。

「……あんまり無茶しないでくれよ」

 クロカは苦笑した。

「……ふん」

 シロハはかるく返事をする。

 気づけば、クロカはシロハの肩で寝息をたてていた。


* * *


「おじゃましまーす…?」

 今日もあやかしの山に来ていた。

 家に入ると、クロカは昨日の元気のなさからは想像できないほど、ダラゴロしながらなにかを読んでいる。

「おっ、来た来た。シロハ宛てにやばい手紙が来てたぞ」

「私宛ての手紙を勝手に読まないでくれる?」

 シロハはため息をつくと、クロカのもっている手紙をとりあげる。

「……なんだ、これね」

 シロハはパッと見ただけで内容を察したようだった。

「なんて書いてあるんですか?」

 シロハは手紙をわたしてくれた。

「妖狐の集落にもどれって話よ。私が一時期暴れまわってたせいで、変なウワサができてから集落にもどしたがってるの」

 昨日、話してくれたことだろうか。

 たしかにあの炎が敵だと考えただけでおそろしいし、集落側もがんばってひきもどしたいところかもしれない。

 この調子じゃ何百年たったって無理そうだけど。

「……ん?この『近いうちに戦争がはじまる』っていうのはどういうことですか?」

 私は手紙の一文に指をさして、シロハに見せる。

「なになに……『最近の山はなにかと問題が増えた。がしゃどくろの大暴れ、シュオン家の支援停止、人間のウワサによる治安悪化。わが妖狐の集落も被害が大きくなっている。今年こそ、あの烏天狗との決着をつけ、妖狐が山を支配するとき。協力をまっている』って、なにふざけたことを言ってるのよ。戦争なんてもう千年はやってないじゃない。ひきもどしたすぎてウソまでつくようになったのかしら」

 なにかと増えた問題は私たちが原因な気がするけれど……。

 シロハが手紙をやぶろうとすると、クロカがもっていた新聞をシロハにわたす。

「どうやらウソじゃなさそうだけど?」

 新聞の見出しには『千年ぶりの大戦争!?とうとうトップが決まるのか!』と大きく書かれていた。

 新聞の内容は手紙に書いてあることと、そこまで違いはなかった。

 ただ、新聞ではとくにがしゃどくろの事件が大きくとりあげられていて、どうやら知らない間にあいつは山の大部分を支配していたらしい。

「あいつ、全然こりないわね。しかも私のいない範囲で好き勝手やってるから、いまや支配力ではどの集落もこえているみたい。だから山の二大集落である烏天狗と妖狐があせりだしてるわけね」

 シロハは困ったように頭をかきむしる。

「集落どもの味方をするのは嫌だけど、戦争されるのはもっと困るわ。がしゃどくろを燃やしてさっさと終わらせましょ」

 シロハが「今度はてかげんしないわ」なんてことをつぶやくと、クロカがなにか言いたげに手をあげる。

「多分、がしゃどくろを倒しても戦争は終わらないんじゃない?」

 シロハが首をかしげる。

「なんでよ」

「いやだって、がしゃどくろをたおしちゃったら支配してるやつがシロハに変わるだけで、集落たちの焦りはなにも変わらないんだよ。なんなら戦いがはげしくなったっておかしくない」

 言われてみれば、その通りだ。

 えっ、じゃあ…?

「戦争をさけることはできないんですか…?」

「わかった、全部燃やせば解決ね」

 シロハは鬼の形相で外にかけだす。

「まて、バカ」

 クロカの言葉でシロハはキツネ耳をピクリと動かし、立ち止まる。

「バカじゃないけど」

「戦いを戦いでおさめるとかバカ以外のなにものでもないだろうが」

 クロカはシロハの肩をつかんでしゃがませる。

「じゃあ、どうするっていうのよ」

 シロハはぺたんと耳をたらした。

「……私に考えがある」

「「考え?」」

 クロカはこれから戦争がはじまるなんて、思っていないような声色で、得意げに笑ってみせた。

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