第11話 師匠

「それじゃあ、またくるわね。おもしろいことになっているのを楽しみにしてるわ」

 私たちは外に出て、アカネのお見送りをしていた。

 アカネは大きな翼で空を飛び、仲間のコウモリたちといっしょに飛んで帰っていく。

「……師匠も飛んでみたいとか思わないんですか?」

……あ、ちょっとデリカシーのない質問だったかも。

「いや、別に。もう飛べない状態で数百年生きてるからな。それに翼は飛ぶためだけのものでもないんだよ」

 飛ぶためだけのものでもない?

 私は首をかしげていると、クロカは翼を羽ばたかせて周りに強風をおこす。

 木々はゆれ、砂利がまいあがる。

 当たるとちょっと痛い。

「はぁ、はぁ……。これが、私が使える妖術。烏天狗は翼に妖力がたまるから、こういうのはギリギリできる」

 クロカは息を切らしていた。

 出会ったときに風が強くなったのはこれだったのか。

「なるほど。……あっそうだ、私の方が妖力って多いはずですよね?」

「ゆかりんは幽霊見えるから、量は私より多いんじゃない?あっ、でも人間は妖術使えないぞ」

 うーん、そうか。

 使ってみたかったんだけどな。

「変なこと考えてないで、さっさと帰る…よ……?」

 クロカが家の方向に振り返ると、とたんにピタッと動かなくなった。

「どうしたんですか?」

 私もクロカの方を見ると、私たちに大きな影がかかっていたことに気づいた。


「グ、グガ、グガ、グギャギャギャギャアアアア!!!!」


 この前シロハが燃やした、がしゃどくろが目の前でさけんでいた。

 ホ、ホントのホントに死んじゃうヤツでは…?

 足がふるえて動けなくなっていると、なにかにつかまれて、足がういた。

 高速で景色が動きつづける。

「……ッッ、自分で走れえぇぇぇ!!」

 気がつくと、私はクロカにせおわれて逃げていた。

「す、すみません!今、おりま―――」

「グギャン!!!!」

 がしゃどくろの腕が空からふってきた。

「だらっしゃああい!!」

 クロカはその攻撃をころがってよける。

「お前、さてはシロハが燃やしたやつだな?勝てないからって弱い者いじめって、性格悪くない!?」

 がしゃどくろは歯をギチギチとならす。

 怒りのボルテージが上がったようだ。

「なんであおるんですか!!怒っちゃったじゃないですか!!」

 私は全速力で逃げながらクロカに聞く。

「作戦のうちだ!これだけさわげば、いつかシロハが気づく!!」

 ゴールはシロハが気づくまで、か。

「そして、怒りによって、スキも生まれるってね!」

 クロカは思いきり翼を動かすと、さきほど見せてくれたときよりも強い風をまきおこす。

 がしゃどくろに砂利が当たりつづけ、少しひるんだ。

「もういっちょ!」

 今度はこちら側につばさを動かして、追い風をふかせる。

「これで、ちょっとは楽に走れるだろ!!」

「はいぃぃぃ!!」

 がしゃどくろは体が大きいかわりに、そんなに速くないから逃げつづけれることはできそうだけど……。

「ギャギャギャギャ!!」

「「ひぃぃぃぃ!!」」

 私たちはがしゃどくろの攻撃をよけつづけなくちゃいけないから、体力がもたない!

 クロカも妖術を使ったからか、汗だくで限界そうだ。

「あっ……!」

 私は追い風による、なれない速さもあって、うっかり、こけてしまった。

「ギャガァッ!!」

 がしゃどくろは私に向かって腕をふりおろす。

「おらぁっ!」

 クロカは私への攻撃をかばうようにタックルをして、二人もろとも低木にツッコんだ。

「「はぁ、はぁ、はぁぁ……」」

 低木にうまいこと隠れられて、がしゃどくろは私たちを見失ったみたいだ。

 ひとまずは助かった。

 クロカは頭をぶつけてしまっているようで、たおれこんでいる。

 少しまっていると、頭をかかえながら、よろよろと立ち上がった。

「だいじょ――」

「い、いろねっ!!いろね!大丈夫か!?」

 クロカは今まで見たことのないほど、あせった表情で「いろね、いろね」と私の肩をゆらす。

「あ、あの、私です。ゆか―――」


「クロカに何をしたあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 遠くからシロハのさけび声が聞こえる。

「グギャアアアアアア!!!!」

 この前の炎のいきおいとは比べ物にならないほどの業火が、がしゃどくろを一瞬にして飲みこんだ。

「クロカ!クロカ!どこにいるの!?」

 シロハが動き回っているが、クロカは混乱しているみたいで、気づいてないみたいだ。

「シロハさぁん!ここです!」

 クロカは置いておいて、シロハに向かって大きく手をふる。

「ゆかり!?よかった、二人とも無事ね!?」

 シロハは走って私たちに近づいてきてくれた。

「いろね、いろね……」

 おかしな様子は変わらず、肩はゆらされつづけている。

 私はその手をつかみ、強く言った。

「私は、ゆかりです!今ここにいるのは、私です!」

 クロカは我に返ったように、パッと目を見開く。

「んがっ!?ゆかりん!?」

 クロカは目を覚ましたみたいだった。

「……何があったの2人とも?」

 シロハが私にたずねてきた。

「実は、アカリさんをお見送りした帰りに、がしゃどくろに出会ってしまって。おそわれてしまったんです。それで……」

「それで?」

 これ、言って大丈夫なんだろうか。

「師匠が混乱してたみたいで、私をいろねって呼―――」

「は?」

 シロハはしょうげきをくらったように固まる。

「あっ、いえ!今はもう見てのとおり元気で……?」

 クロカは青白い顔で気を失っていた。

「し、師匠!?大丈夫ですか!?」

 シロハはクロカにかけよる。

「……妖力の使いすぎね、寝かしておいて」

 クロカは息切れしていて、苦しそうだ。

「あの、前もハイラが言ってた、いろねって誰のことなんですか?」

 もう隠すことはできないと、シロハはあきらめたように話してくれた。

「……クロカに絵を教えた、師匠ってところかしら」

 師匠の、師匠…?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る