第2話 初対面(?)の三人

『ね〜早く開けてよ!最近外あっついんだから、汗かいちゃうよ!』

そう言ってコンコンとドアを叩く妹。

『まさか……不在、か?』

『でもさっき、確か声は聞こえましたよね?どうしたんでしょう』

加えてその妹の友人だろうか、三人の声がドア越しに聞こえてくる。

遊びに来た?なんでここに?というか……人が僕の家にっ!?!?

「いっ……今開けますっ!」

『なんで敬語……?』

バクバクと心臓の鼓動が早まる。思えばここに引っ越してきてから、郵便屋さんくらいとしか話してないような気もする。他人が、ましてや女の子が家に来るとか僕は想像だにしなかった訳で……

どうしようどうしようとパニックに陥りつつも、僕は急かされるままに扉の鍵を開けた。


「あ、開いた!おはよーお兄ちゃん!」

「え、あ……」

「二葉ちゃんがさー、ゲームが好きなんだって!それでお兄ちゃんちにゲーム一杯あるから遊びに来たのっ!」

「あ、は、はじめまして……失礼する」

「ふふっ。お久しぶりです、お兄さん」

「お兄ちゃん多分今暇してたでしょ?そういうことだからよろしく〜」


そういって僕の部屋へと入っていく妹。後を追うように、友人達も妹へと着いていく。

女の子が来るなら部屋の掃除しておけばよかったとか、今更すぎる後悔をする。部屋に戻りたくない、かと言って外には出たくない。そういって玄関をうろつきながら考え────思いつく。

そもそも妹の友達が家に来たなら、まず飲み物とお菓子でも出さないといけないのではないか、と。

そうだ、ジュースくらい出すべきだ。それだけやって後はトイレにでも引っ込んでれば良い。意を決し、こっそりとドアを開けると───


「……あ、やっと入ってきた。折角なんだし、お兄ちゃんもゲームしようよ!」

「……え?」

すぐさま妹に捕まり、僕は女の子三人の中心へと押し込まれた。


「ふむ……四人プレイというのは、我は初めての経験だ。興味深い」

「ふふっ、一緒にゲームするのなんて5、6年ぶりくらいじゃないですか?お兄さん」

「あ〜……そ、そうだっけ……?」

画面が小さいからか、両隣に腰掛ける女の子達は、特に右隣の「お兄さん」なんて呼んでくる茶髪の子はやたらと距離が近い。妹に至っては───

「ふへへ〜♪お兄ちゃんとゲームなんて私も久し振りかも!でもさ、小学生くらいの頃はよくやったよね?こうやって、膝の上に座ってさ」

なんて言いながらすっぽりと膝上に収まり、もたれかかってくる。

「うわっ……!?」

服越しに柔らかな肌の感触、温かな妹の体温が伝わってきて、頬が一気に熱くなる。

「ねぇお兄さん、二葉ちゃんはとってもゲームが上手なんですよ。勝てそうですか?」

「はへっ!?えっと……ど、どうでしょう……?」

「お兄ちゃん、なんでさっきから敬語なの……?スイちゃん相手なんだからそんな緊張する事ないのに〜」

無茶な話だ。だって、初対面の女の子にこんなに密着されて……あれ、そもそも本当に初対面なんだっけ?

そもそも彼女達は、僕にこんなにベタベタと密着して気持ち悪くは思わないのだろうか。コミュニケーションすら僕は上手く取ることができない、果たして僕は、彼女達がゲームを楽しむ邪魔をせずに済むのだろうか────

「おっけー、みんな準備出来たよ!」

「ふむ、ならばゲームマスターたる我がここに宣言しよう───ゲーム、スタートッ!」

そんな不安を抱えたまま、ゲームは始まった。



「あ、あれっ!?方向転換ってどうやってやるんだっけ……!?」

「あ、茜……右手、右手のキーで……!」

「んっ、これ……久々にやると、難しいですね……!」



「くっ、まさかこの我が銃撃戦に負けるとは……!やるな……」

「やったー♡お兄ちゃんナイスー!ハイターッチ!」

「お、おう……!」



「ふふっ、私が一番乗りです♪それじゃあ……この宇宙旅行券は私が貰いますね」

「いやマジかっ、そこで最大値引くか……!」

「スイちゃん運良っ……!あれ、宇宙旅行ってどんなんだっけ?」



「ぐ、ぐわーーー!ここに来てバースト……!」

「あはははっ!二葉ちゃん気前よく賭けすぎ!お兄ちゃんもさっきまでトップだったのに……ほら〜最下位じゃん〜!ふふっ、あははは……!」

「ほんとだ、うわやらかしたか……あはははっ……!」



楽しい。



上手い下手じゃない、こうやって遊んでいると、自然と笑みが浮かんでくる。


さっきまでの不安はどこへやら、蓋を開けてみれば僕はパーティゲームの予想外の楽しさに驚いていた。



「な、なんとか勝った……!我の勝利だ……」

「はは、熱戦だったな……!」

「ふー、笑った笑った!一杯遊んだら、私疲れちゃった……!」

「ふふっ♪私もです……喉、乾いちゃったかも」

「ああ、じゃあ僕ジュース取ってくるよ……」


ゲームの結果画面が表示され、温かな余韻が部屋を包む。小一時間ゲームをしただけなのに、なんだか物凄く友情が深まったような気がした。



一息つき、僕は皆にジュースを配りつつ……聞きそびれていた事を尋ねる。


「あのさ……皆」

「ん、どしたの?お兄ちゃん」

「どうかしましたか?お兄さん」

「……なんだ、レンタ」



「失礼なんですけど………どちら様ですか?」

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