引きこもお兄ちゃんと生き残り大作戦!
浪々日記
第1話 GAME OVER
荒涼たる大地を、一丁の狙撃銃と共に駆け回る。
銃声、爆音、風に乗った硝煙の香り。
殺伐とした戦場にて、ただ一瞬でも長く生き残る為だけに延々と戦い続ける。
岡を下り、山を登り、少し屈んでドリンクを呷り────何処に潜んでいるかも分からない、敵の影に怯えながら。
刹那、大きく響く狙撃の音。ここからそう遠くはない筈だ。
脚を止め、木陰へと避難した僕はスコープを覗いて銃声の出所を探す。
「……みっけ」
岩陰に一人の戦闘員が隠れているのに気がつく。こちらに気付いている様子はない。きっと別の人を狙っているのだろう、僕はゆっくりとその頭へ照準を定め、冷え切った引鉄に手を掛け────それを済ませる寸前、後ろの方からザクザクと、別の足音が響く。
「!」
慌ててそちらを振り返れば、既にその銃口は僕へと向けられていた。
「あ」
ババババッ、と乾いた銃声。
画面に浮かぶのはYOU DIEDの文字。……少しして、僕はゲームのコントローラーを放り投げた。
「あ〜〜……また負けた」
戦績は散々といった所で、4回敵を倒すうちに10回は死んでいる。これがマルチプレイだったら戦犯だなんだと怒られていた所だろう、上達する見込みはない。
僕が現実から逃げ出し、部屋に引きこもり始めたのはつい先月の事だ。そこに至るまで僕の身に何があったのかはあまり覚えていないし、思い出したくもない。
分かっているのは、その結果。
人と居ると気分が悪くなって、高校やアルバイトは全て辞めた。「家に居られると困るから」と親からは別居を告げられた。それで、
自由な時間が増えたからといって、それを有意義に使っている訳でもない。
決して上手くもないゲームを繰り返す。読み飽きた古いライトノベルを読み返す。少し笑い、少し寂しくなる。そうやって人生に残された時間を、少しずつ、少しずつ削っていく。
いつまで親の支援が続くかも知らない。住む場所があるから生きる、生活費が尽きたら死ぬ、重いドアの向こう側へと行きたいとも思わないし、そんな現状を変えたいとも思えない。無責任に生きられるだけ生きて、後は無意味に死ぬ……そんな結末を、待っている。
「暇だな………」
呟いた内心は、鳴り響く秒針の音に流され、マンションの防音壁へと消えていった。
ゲームオーバー。僕には未来も無ければ希望もない。社会との繋がりも、言ってしまえば殆どない。
あと何年この部屋で暮らすのか、あと何十年こんな時間を過ごすのか。暗い考えはもやもやと、僕の頭を埋め尽くす。
次第に体の力が抜けてくる。こういう時は大人しく眠るか、それとも………そうだ、ご飯がまだだった。箱買いしたカップ麺を取り出そうと、僕は棚へと向かう─────
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴り、僕は少し身構えた。
平日の午後3時。こんな時間に来客?両親はきっとまだ仕事をしている頃だろう。
何か通販で注文したか、それとも遂に追い出されでもするのか。沸々と湧き起こる嫌な想像を胸に、僕はおそるおそる、インターホンのスイッチを入れる。
「はい……えっと、どちら様でしょう」
『おはよ〜〜っ、お兄ちゃん!遊びにきたよ〜〜っ!』
「……え?お兄ちゃん、って……」
『あれ……見えてない?妹の茜だよっ、学校終わったから友達と遊びに来たの!』
ドアの向こうに立っていたのは───三人の、見知らぬ女の子。
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