第2話 「元カレの話はワインとともに」
金曜の夜、表参道の小さなワインバー。
落ち着いた照明が心地よく、グラスを傾ける女性たちの声が響く。
「はー、やっぱりワインはいいね。心にしみる」
沙織がグラスをくるくると回しながらため息をつく。
「で、結局どうなの? 連絡、返したの?」
玲奈が身を乗り出す。
「返したよ。そしたらさ、『久しぶり。元気にしてる?』って…何?この微妙な距離感」
沙織は苦笑しながらワインを一口。
「別れてどのくらいだっけ?」
美咲が静かに尋ねる。
「2年…いや、もうすぐ3年かな」
「3年かぁ。それで急に連絡?」
「そうなのよ。何かあるんじゃないかって勘ぐっちゃうでしょ」
「あるでしょ、絶対」
玲奈が断言する。
「寂しくなったか、彼女と別れたか、あるいは…」
「結婚報告?」
美咲の一言に、沙織の手がピタリと止まる。
「……いや、それはないと思う。そんな雰囲気じゃなかった」
「でも、元カレの“久しぶり”ほど信用できないものはないよね」
千佳がくすっと笑う。
「ほんとそれ。結局、自分が思い出したときに連絡してくるだけ」
玲奈がグラスを置く。
「……それでもね、少しだけ期待しちゃうのが、女の哀しい性なのよ」
沙織はワインを見つめながら、ぽつりと呟く。
「そりゃそうよ。だって好きだったんだもん。簡単に忘れられるわけないじゃん」
美咲が優しく微笑む。
「でもさ、もし彼が『やり直したい』って言ったら、どうする?」
玲奈の問いに、沙織はふっと笑う。
「……昔の私なら、すぐに飛びついたかもね。でも今の私は…どうだろう」
「そっか。じゃあ、ワインのおかわりでもする?」
千佳がメニューを手に取る。
「うん、そうしよう。過去はワインとともに流して、今夜は今を楽しもう」
4人のグラスがカチンと鳴る。
赤い液体が揺れ、ゆっくりと夜が更けていった。
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