雨の日は、お茶を淹れて

sui

雨の日はお茶を淹れて


静かな午後、窓の外では雨がしとしとと降り続いていた。

傘を差すのも億劫で、今日の買い物は見送ることにする。


「あったかいお茶でも淹れようか」

独り言のように呟きながら、棚からお気に入りの茶葉を取り出した。


湯を沸かしながら、私はふと、昔のことを思い出す。



雨の日にお茶を淹れる習慣は、祖母の影響だった。

小さい頃、祖母の家に遊びに行くと、決まって雨の日は温かいお茶を淹れてくれた。


「雨の日はね、外に出られないぶん、心を温める時間にするのよ」


そう言いながら、祖母がゆっくりとお茶を注ぐ手元を、私は夢中で眺めていた。

湯気の向こうに優しい微笑みが浮かんでいたのを、今でもはっきりと思い出せる。



茶葉に湯を注ぐと、ふわりと甘い香りが広がる。

祖母が好きだったお茶と同じものだ。


「もう一度、一緒に飲みたかったな」


小さく呟いて、私はゆっくりと湯呑みを手に取る。

口に含むと、優しい苦みとともに、懐かしい思い出が蘇る。


外は相変わらず雨。

だけど、心はどこか穏やかだった。


今日もまた、雨の日にお茶を淹れる。

それは、祖母と繋がる、大切な時間だった。

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雨の日は、お茶を淹れて sui @uni003

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