第12話
しばらく3人で会話が弾む。女性達は時折またこちらを見ては腹の黒い表情で目を合わせ、芸能プロ社長らしき人物に鳥の
「選曲、僕もすごく好きでした。改めて仲良くしてください」
先の私と黒瀬さんとの会話で好きな音楽が被っていた、というくだりで、彼がそう言った。
何となくだけれど、これは嘘ではないような気がした。
「嬉しいです。同い年で音楽の趣味が合う人って、中々いなくて」
全く掴みどころのなさそうな人ではあるけれど、音楽好きに悪い人はいないのだ。この辺は別に丼勘定でも構わない。
確かに、と辺美さんが微笑む。作り笑顔とはいえ、本当に美しい造形の顔立ち。センターパートの前髪は鼻先で揃えられていて、指通りの良さそうな黒髪が顔立ちによく似合っている。
会話に小さな区切りをつけるように一瞬だけ目を伏せてた後、向けられた瞳に、少し熱が宿っていたような気がした。
皺のない、少し厚みのある艶やかな唇が開く。
「今度またイベントがあったら、誘ってください」
「もちろんです。辺美さん、クラブお好きなんですか?」
「友達と飲みに行った帰りなんかに、時々行く程度ですけどね」
プライベートでは極端に男性との関わりがないから、世の25歳男性の普通を知らない。彼はその内に入るのだろうか。
いや、きっとそうなのだろう。友達と飲みに行き、夜が更けて、アルコールで気分が良くなればもう少し遊びたくなったりして、普通にクラブに行ったり、普通にカラオケに行ったり。
女だって同じだから、結局彼もその辺にいるような年相応の男性で、私が感じた違和感などは間違いで、そんなに警戒すべき人ではないのかもしれない。
「じゃあまた、お誘いしますね」
にこりと笑顔で返していると、隣で他の3人と話していた黒瀬さんに声をかけられ、その流れでまた紹介が始まった。
芸能プロダクションの社長と言われていた男性は吉浦といった。偏見だけれど、黒瀬さんが上品で落ち着いた男性だとすると、吉浦さんは派手で少々野蛮な印象で、私の苦手なタイプだった。
そんな彼と黒瀬さんは高校時代からの腐れ縁で、今でもなんだかんだと仕事で付き合いがあるのだと言う。
それから、吉浦さんは女好きらしく、隣の女性達は歌舞伎町のクラブでホステスをしている女性、吉浦さんの知人なのだそう。
クズなところも沢山あるのに、憎めないんだよね、コイツ、と笑う黒瀬さんに、ガハハ、と豪快に笑う吉浦さん。
「社長、魁星くんどっか行っちゃったよ?」
ホステスの女性の声で、いつの間にか辺美さんがいなくなっていたことに気付いた。
「魁星なら下に行った筈だよ」
ちょっと様子を見てきますね、と、黒瀬さんにそう言って席を離れたらしく、なあんだ、とそれを聞いてつまらなそうな顔をする女性達。
何となくまた、気まずい空気が私の周りだけに立ち込めてきたような気持ちになって、ちょっとお手洗いに、と言って私は席を立った。
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