第7話
それからまた暫くの時間、近況の報告をし合った。
茉優來はよく喋る。その上、話が上手だから、会社の上司の愚痴一つでも笑いに変えてしまう。こればかりは本当に、彼女の才能だと思う。
私も、聞き専というわけではないものの、別段お喋りな訳でもないので、口にマシンガンでも埋まっているかの如く延々と話し続ける茉優來と居る時は自然と聞き手に回ることが多くなる。
そして大体笑わされている、というのが私たちのデフォルトだ。
「あ、そういえばこの前ウェブマガジンのインタビュー読んだよ」
イベントの前後など、不定期的に雑誌のグラビアやインタビューの仕事を受けることがあるのだけれど、茉優來はそれらを大体チェックしてくれている。
そして、時々こうして会う時と重なれば感想を聞かせてくれるし、タイミングが合わず中々会えない時はその雑誌を写真に収めてメッセージで送ってきたりする。
この前は、ストリート系ブランドとコラボした雑誌の企画コーナーを見開きで撮った写真と一緒に「良ビジュ万歳」とだけ送られてきた。
「ほんと?うれしい」
「うん。すごく興味湧く内容だった」
茉優來は所謂クラブミュージックに興味がない。音楽好きではあるけれど、あの独特の夜の雰囲気で満ちる空間が好きではないらしく(確かに、来ようものなら十中八九ナンパ目的の男の格好の的になるだろうから)イベントに来ることはない。
その影響でダンスミュージックやクラブミュージックと言われるものを食わず嫌いしていて、代わりにこうして、メディアやSNSで活動を見ていてくれるのだ。勿論、その点に関して私が過干渉になる事もない訳なのだけれど。
「つまんなくなかった?」
「全然。それより、なんか……」
「なんか?」
言葉を止めた彼女は、重ねた人差し指と中指の指先で顎を押さえながら小さく唸り、後に続ける言葉を探すように天井を仰いでいる。
それから、何か適当な文句が浮かんだのか、あっ、と、小ぶりな口と大きな目を見開いてからこちらに向き直る。
「うん。そう、なんか、主語の音楽を人の名前に変えたら、最愛の人への甘ーく重ーく深ーい想いを語ってるみたいだなあ、と思った」
「ええ?どういう意味?」
「そのまんま!」
茉優來の読んだインタビューというのは、恐らくカルチャーマガジンの連載企画『わたしの偏愛事情』のことだ。
毎回、多方面で活躍する若手女性クリエイターをゲストに、自身の創作活動から恋愛に至るまでの価値観や世界観を掘り下げていく人気企画らしい。
ライターさんがびっくりして笑ってしまうほど夢中になり、つい熱く語ってしまったので、正直なところ内容はあまり覚えていない。
「最愛の人への想い、か」
けれど確かに、音楽は紛れもなく今の私の「最愛」だ。
「今の阿都にとっての音楽みたいな素敵な存在にきみは出会えるって、私は信じてるよ」
私の思考を見透かしたかのように、そしてその想いに手を差し伸べるかのように、穏やかに顔を緩ませて茉優來は優しくそう言った。
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