第6話

「おはよう、つきちゃん。やっぱり起きて居たんだね、さっきとベッドのシワがかなり違って居たからもしかしてって思ってたから」



 どうして……どうして私の名前を……。



 そう思ってしまうけれど、そんなの私から奪ったであろう鞄の中の身分証明証を見れば一瞬で分かることだ。




「ごめんね、副作用で頭ズキッとしてたでしょ? 本当は薬なんて、何も無しに危害を与えず、ここへ連れて来たかったんだけどね、そう簡単にはいかないものだよね」




 何を……何を言っているの……この人……。



 でも話口調からして優しげ……今ならきっと話を聞いて解放してくれるのではないか?




 そんな期待と恐怖が入り混じる中、震える喉から懸命に声を出し、お願いを伝える。



「離してッ……離して下さい……解放してッ下さい……こんな犯罪行為……今すぐやめて下さい……今なら許してあげます……内緒に……内緒にします……誰にも……家族にも言いません……だからッ……お願いッ解放してッ……犯罪行為何てしないでッ」




「そうだね、世間一般では犯罪行為になるんだよね。でもさ人に合わせて得な事と損な事があると、そう思わない? 月ちゃん。俺はね大多数に賛成する必要なんてないと思うよ」




「どうしてッ……どうして……犯罪行為なんてッ……」



「まぁそれしか無かった……って言うのかな。俺が求めた結果が犯罪行為を犯す事、世間一般のマイナーな行為だったってだけだよ」




 意味が……意味が分からない……。




 それに、どうして……そう冷静なの……。



 悪い事してるって、思っていないの……?




 私が如何にも間違っているような、そんな口ぶりに今まで感じた事の無いような恐怖を覚える。

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