第34話

「こんなこと言うと責任を押し付けているみたいだけどさ、」




ふっと視線を下げて、ストローで飲み物をかき混ぜた。それを見てわたしも同じようにストローでかき混ぜる。


クルクルと回るグラスの中身にアイの笑った顔が浮かんで消えた、それを残念に思ったらわたしの表情が歪んだ気がしたけどアイの残像を恋しく思ったら頬が緩んだ気がした。


自分の表情を見ることが出来ないから、気がしただけで無表情かもしれないけど。目の前にいないのに振り回されて嫌になるよ、ほんと。




「ウタちゃんが藍佑の声を取り戻してくれるような気がする」


「……え?」


「俺が勝手にそんな気がしてるだけだから、何も気にしないで欲しいんだけど」


「……はい」


「ウタちゃんといたら、いつか藍佑が声を取り戻せる気がするんだよね」




今度は顔を上げて遠くを見つめるお兄さんは過去を見ているのだろうか、それとも未来を見ているのだろうか。どっちにしてもきっと、藍佑が楽しそうに喋っている姿を追っているのだと思う。


羨ましい、わたしにはアイが喋っている姿を簡単に想像することが出来ないの。


だって藍佑の声を、たった一度だって聞いたことが無い。


1秒だって、0.1秒だって聞いたことが無いの。

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