第29話

立ち漕ぎをして家まで全力で帰った。下り坂はノーブレーキだ。


太ももに何とも言えない疲労感が溜まる、こう言うときって、乳酸が溜まる、って言うんだっけ。


考えてやめた、わたしのことを悩ませるのは藍佑だけで十分だ。




「あつい」




家まで信号以外ノンストップ、全速力で帰ったから止まった瞬間全身が火照って汗がじわりと染み出てきた。




“じゃあタダでウタの人生を俺に頂戴”




さっきのアイの文字が、わたしの作り出した藍佑の声で再生される。


わたし、そんなに安いオンナじゃないの。だけど代わりにわたしの人生と同じくらい価値のあるものと交換してくれるなら考えてあげてもいいよ。


それが何かは自分で考えて、分からなかったら分かるまで考えて。


額から染み出てきた汗を乱暴に手の甲で拭った、どうしてこんなに暑いんだろう。

考えて、やっぱりやめた。


わたしのことを悩ませるのは花園藍佑だけで十分だ。

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