第32話

相変わらずの言い合いの末、しかしチャマとの約束をがっちりモノにした彼は、上機嫌で帰って行った。

やれやれ…


まぁ今回はしょうがない。けどな、俺だってやられっぱなしじゃないぞ。

妻子を守る藤原基央をなめんなよ!攻撃は最大の防御って言うし!


ペンをくるくる回しながら、仕返しと共存の道を考え始める。

隣で何か喋っていたチャマとヒロが、俺の方を見てくすくす笑ってる。

配られた書類に目を通す秀ちゃん…、なんか眠そうだけど。




ま、とりあえずは目先のライブに集中しますか。

頑張らなくちゃな。

せっかく四人に戻ったことだし、娘も見に来ることだし。

最高のステージで復活してやろうじゃないの。




『ねー藤くん』

「ん?」

『俺このMCんとこで脱いでいい?』

「えぇっ!?だ、ダメダメ!」

『だってさぁ、“チャマは体調崩して長いこと休んでた”って思ってるリスナーが多いじゃん。しょうがないことかもしれないけど』

「あ~…うん」

『だから見せつけてやるの!俺はこんなに元気だって!』

「それは分かるけど、脱ぐ以外の方法を考えろ!!」

『でもそれが一番手っ取り早いしぃ』

「やめろぉぉおお!!」




「…秀ちゃん」

「なに」

「曲順、いつになったら決まるのかな」

「最初のMCでこれじゃな…」

「夜中までかかるかもねぇ」




四者四様の思いを乗せて、夜が更けていく。

俺たちはいくつになってもこのままなのかな。

子供が出来てもこれだもんな。




『いいや、もう決めた!俺は脱ぐぜ!何ならパンツいっちょで…』

「それだけはやめろー!せめて上半身だけにしろ!」

『ひろぉ、藤くんが俺の衣装にケチつけるー』

「裸を衣装と呼ぶかどうか…。どう思う?」

「意外と哲学的な問題かもね」




…みんな、ライブが無事にできることを祈っててくれ!








【了】

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