第16話

乱れた文字たちはもう少し続いていたけれど、俺はもうそれ以上読めなかった。

泣けて泣けて、どうしようもなくなっていた。


謝るなよ。

どうしてそんなになるまで頑張ろうとしたんだよ。


いいから戻ってこい。

身体ダメにしたら元も子もないだろ、帰ってこいよ。



『俺だって会いたいよ…』



藤くん。藤くん。藤くん…









窓の外は白くて、冷たい風が吹きすさんでいるというのに、俺の心は満たされていた。

涙と一緒に、言葉にしきれない気持ちがあふれ出てくる。



―――ほんとは俺も会いたかった。でも我慢しなきゃって、ずっと思ってたんだよ。


知らねぇぞ。おまえの方から会いたいなんて言われたら、俺は何を置いてもおまえんとこ行くからな!





そこへヒロが息せき切って戻ってきた。

目を輝かせて、俺の肩をつかむ。



「今秀ちゃんから連絡来た!藤くん大丈夫だって、病院に連れてったって!もう心配いらないよ!」

『……う、ぁ…っ、ぁああー……』



布団に突っ伏して、必死で声を抑えながら泣き続ける俺に、さらに嬉しそうに話しかけてくるヒロ。



「良かったねチャマ。身体が良くなったらさ、あいつんとこ行ってみよう」

『…うん…』



小さく、でもしっかりと頷いた。


会いたいと言ってくれてありがとう、藤くん。

きみの帰ってくる場所はここにあるよ。


大丈夫だから。身体さえ健康なら、夢はまた追えるから。



「さて…じゃあ順番変だけど、お医者さん呼ぼうか」

『え?あー。そっか、そうだね』

「おまえ顔色最悪なのに、どうしてそんな元気そうに見えるんだろ(笑)」

『さぁ?』





藤くんに会う前に墓参りもしないとな。

1年以上もの間、“藤原”と一緒に過ごした“ホーリーナイト”の。


誰にも信じてもらえなくても、あいつは確かに俺だったから。





ごめんな。そしてありがとう。


福猫と呼ばれた真っ黒い仔猫。

おまえは間違いなくホーリーナイト。聖なる騎士だよ。

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