第15話

『あいつが、地元を…この街を出てまで大事にしたかった夢。どうなのかな』



言いたくないけど、言ってしまう。

俺見てたけど、だからほんとは知ってるけど、それでも聞きたかった。


ねぇ教えてよ。どうなったの?

俺たち仲間よりも絵を選んだ、それだけの覚悟とともに出奔した、藤くんにとって一番大切なものは。



「…チャマ。読んでみ」



小さく震える俺を見たヒロがにこりと笑い、枕元の手紙を握らせてきた。



「それ読めばだいたい分かると思う。ごめん、俺と秀ちゃん、先に読んじゃったけど」

『え…』

「1人で読んだ方がいい。…俺はその間に、この子を埋めてくるから」



そこで初めて気づいた。

小さな黒猫は、力の全てを使い果たしたかのように、呼吸することを止めていた。









―――直井由文様。



静かに出て行くヒロを見送り、ヨレヨレの便せんを取り出す。

よく知っているはずの筆跡は、殴り書きみたいでひどく読みづらかった。



―――久しぶり。しばらく手紙出さないでごめん。



そうか。きっと彼はこの1年以上の間、俺宛に何度も手紙をくれたんだろう。

でも俺は返事を書かなかった。否、書けなかった。



―――今おれ具合悪くて寝てる。起き上がれない。ホーリーナイトにこの手紙を託します。こいつのこと頼むな。何でも食うし、かわいいヤツだから。



…なんで猫のことばっか書いてんだよ。

おまえのことも書けよ。心配するだろ。



―――おれ、絵の勉強してくるなんて偉そうなこと言ったけど、結局何もできなかった。たかが1年だけど、意地を張り続けた結果がこれだった。ごめん。頑張れって言ってもらったのに、本当にごめん。



どんな思いでこれを書いたのかと考えると、いたたまれない気持ちになった。

…大きな志を抱きながらもあの薄暗い部屋で冷えていったのは、身体か。それとも心か。



―――弱気になってごめん。でも今、こうなってみて初めて分かった。絵が一番だと思ってたのに、1人で平気だと思ってたのに。



読んでいるうちに目の前がかすんで、書かれてる文字がよく見えなくなってくる。


藤くんの一番になりたかった。

でもそれはかなうはずもないことだったし、実際そうなっても困るだろうと思っていた。それなのに。



―――チャマ、おまえに会いたい。わがままでごめん。でも懐かしくて気が狂いそうだ。会いたい。

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