宇宙総裁になる天才が欲しかったのは、美術家の才能だった

@fujimiyaharuhi

第1話

 名前が呼ばれた。


「もう一度言う、テラ、ムー、お前の作品はAIが書いたようなものだ」


 俺の名前はテラ・ムー。


「生成AIは使用しておりません」

「プリンターでAIが書いたものを複写したのだろう」


 頭の禿げた教師が言う。俺は美術大学の美大生だった。AI黎明期は、生成AIについて厳しく取り締まりがなかったが、今では生成AIの使用は校則に違反し、最悪退学処分を下される。だから、この教師の発言は学生にとっては死刑宣告の一歩手前のようなものだった。


「自分は機械に詳しくないので」

「機械に詳しい仲間がいるのだろう? テラと仲が良い学生がこの中にもいたよな」


 禿げ頭の教師は、周りを見渡し、フー・サイロという男を呼び出した。フーは身長は低いが、成績は俺よりも優秀だった。特に機械学に長けていて、美術を機械に取り入れるセンスがあった。この世界ではアンド・ロボットという二足歩行型の機械があり、美大生の一番の就職先がアンド・ロボットの製作会社だった。


「おまえは、生成AIを使ったことがあるか?」

「ありますけど」


 禿げの教師は笑顔を見せ、顎を上げて俺のことを見下ろしてきた。


「一つ聞いていいかな。テラに生成AIを見せたことはあるか?」

「んー記憶にありませんが」

「政治家見たいなことを言うな」


 禿げの教師は怒鳴り声を上げると、呼吸を整え、フーの肩を右手で叩いた。


「もう一度聞く。生成AIをこいつに使わせただろう?」

「それはないです。テラは機械音痴なので、見せても意味がありません。それに、僕の機械学では生成AIの使用は許可されているので、そんなむげな言い方は規則違反になります」


 規則違反とは、生徒に対する教師の校則のようなものだった。禿げの教師は言い組められ、黙り込んでしまった。


「もういい、行け」

「自分もですか?」


 俺が聞くと、禿げの教師は何も言わなかった。俺は教室を出ると、廊下を歩いているフーの背中を叩いた。


「ナイス、助かったぜ」

「事実を言ったまで」

「お前はいつもクールだな。クールな男だ。フーの作るロボットは、言葉攻めが強いんだろうな」

「ロボットは喋らない」

「そうだった」


 フーはクールで冷めていた。物事の見方が理系らしくて、どうして美大に入ったのかも、知り合った当初は謎だった。理系の大学に進学すればよかったのだが、彼の作風を見ると、こいつはロボットのデザインがしたいんだな、と納得した。フーは作風はとてもシンプルなものだったのだ。ロボットのデザインにはシンプルが一番と言われていた。


「これからどうするんだ?」


 俺はフーに聞いてみた。


「学食に行く」

「じゃあ、俺も行こうかな」

「いいけど」


 フーは言葉少なく言い、俺は後ろを付いていった。学食に入ると、俺はテーブル席に座り、フーは向かいの椅子に座った。そこで注文を入れるために、携帯を開いた。ニュースが流れていて、俺はその題目に目を奪われた。


「NS社のアンド・ロボット、TM2000が2205年4月8日に、地球の東京においてAIの暴走により多数の死傷者が出た。NS社の声明によると、下請けの会社による不備を確認し、早急に対処する、とのこと」


 ニュースの映像が流れ、ビルが倒壊している様子が映っていた。俺の祖先の故郷だったので、心配だったが、確か、フーも日本人を祖先にしていたと聞いた。ニュースを見せると、フーは黙り込んで何かを考えていた。

 

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