声優くずれアラサー妹Vになる

海星めりい

プロローグ


「人生何が起きるかわからないとはよく言うけど――まさか、私がねえ……」


 桜宮さくらみや愛梨あいりはそんなことを言いながら苦笑するが、彼女の眼の前の存在は僅かに笑みを浮かべるだけだった。

 緑一色グリーンバックの中で、愛梨の動きにあわせて動くゆるふわ寝間着の少女は愛梨の感情と必ずしもリンクしているわけでは無いということを改めて知る。


「んー? ねむちゃんどうしたの緊張?」

「いや、全くしてないって言ったら嘘になるけど、大丈夫。そっちは?」


 自分でも大丈夫と言い聞かせていないと、どうなるかは分からなかった。


「私は、大丈夫だよ。ねむちゃんと一緒だからね!」

「はいはい、分かったから抱きつくな。自分の画面の前に戻ったほうがいいんじゃない?」

「もう、少しはお姉ちゃんに甘えて、頼ってくれてもいいんですよ?」

「それは設定の方でしょ……」


 と言いつつも、リアルでもそうなりつつあるような気がするのが怖い。

 生活力は明らかに愛梨の方が下回っているから仕方ないといえばしかたないのだが……。

 そんなやり取りをしているうちに、予定時刻になろうとしていた。


「じゃあ、いこうか?」

「いっちゃおうー!」


 二人とも手元を操作して配信を開始する。


「こんひかりー! Lunaria所属Ⅳ期生。姉の夢見ひかりです。皆、これからよろしくね!」

「こんこんねむねむ~。同じくLunaria所属Ⅳ期生。妹の夢見ねむだよ~。ほどほどでよろしく~」


(やれるとこまで、やってみるか……せっかくのチャンスだしね)


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