第17話 「偽りの静寂、真実の咆哮」

足元の石畳が軋む。

城下町の片隅にある古びた地下遺跡。そこは、かつて大戦の兵器を隠していたという噂の残る場所だった。


せつなは目を細め、前方を慎重に見つめていた。

手には漆黒の呪符が握られている。

「空気が……腐ってる。これはただの罠じゃない」


「結界だ。中に何か封じられてる」

隣に立つケイルが低くつぶやく。剣の柄に手をかけたまま、壁の魔方陣をじっと睨みつける。

その横でフィオナは魔力を練り、ローブの裾を揺らして構えを取る。


「行こう」

短く告げて、せつなが前に出る。呪符が淡く光を放ち、闇を払う。


そして、その奥に待っていたのは——


「誰か、いる……?」

乾いた声。だが、それは人ではなかった。

壁に封じられたまま呻くように名を呼ぶそれは、半ば骸骨となった”人型”の魔物だった。

呪いと魔法、魂が溶け合って歪み果てた存在。


「……助けて……くれ……」


せつなは一歩踏み出す。

「どうして、そんな姿に……」


その瞬間、魔物が目を見開いた。

「魂を……くれ……!!」


空気が爆ぜた。

フィオナが即座に防御結界を展開、ケイルが前に飛び出して一閃を放つ。

魔物の動きは速く、怨嗟の叫びが天井を裂いた。


「こいつ……人だったんだよね?」

せつなが問いかけるように呟く。


「たぶんな。けど今のこれは、もう人じゃない」

ケイルの声には哀しみが滲んでいた。


「なら、せめて――」

呪符が光を帯び、せつなが詠唱を開始する。


「鎮まれ……魂の奥底に還れ。――『魂縛・鎮命ノ儀』」


場の空気が一変した。呪術の波が魔物を包み込み、その叫びが静かに、少しずつ沈んでいく。


しばらくして、そこにはただ、穏やかな空気だけが残っていた。


フィオナがそっと口を開いた。

「……成仏した、のかな」

「せつな、すごいじゃん」

「……うん。けど、これで終わりじゃない」

せつなは静かに目を閉じた。


「ここには……もっと、深い闇がある」


そう、これは始まりに過ぎなかった。

地下遺跡の奥には、まだ何かが、彼女たちを待っている――

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