第16話 —— 影の墓標と、目覚めの刻
闇の亡者が消え去った後、せつなは妙な違和感を覚えていた。
あの存在は一体何だったのか? そして、なぜ自分に話しかけてきたのか?
戦いの余韻が残る静寂の中、彼女はじっと手のひらを見つめる。戦闘中に感じた、何かが流れ込んでくるような感覚——。あれは何だったのだろう。
「……考えても仕方ない。今は休もう」
疲れた身体を引きずりながら、ギルドの宿屋のベッドに倒れ込む。
羽毛布団の柔らかさが背中を包み込むと、緊張が解け、一気にまぶたが重くなった。
しかし、眠りに落ちた瞬間——
——「目覚めよ、墓守よ」——
耳元で囁く声がした。
せつなが目を開けると、そこは見知らぬ空間だった。
暗闇の中に立ち込める白い霧。地面にはいくつもの黒い墓標が並んでいた。
「ここは……?」
周囲を見回していると、突如、目の前の墓標が音もなく崩れ去った。
その瞬間、せつなの頭の中にある情報が流れ込んできた。
——この墓標に刻まれていたのは、今日倒した闇の亡者のものだった。
「まさか、これ……?」
不意に、背後から低く囁く声が聞こえた。
「……守るべきものを失うたび、お前は力を得る」
振り向くと、墓標の影から骸骨のような姿の亡者が現れた。
身にまとう黒いローブはひどく古びていて、その奥の眼窩には深淵のような闇が広がっている。
「誰だ!」
せつなが叫ぶと、亡者はゆっくりと手を伸ばした。
「墓守よ……これは、お前の役目だ」
その手のひらから、一冊の古びた本が現れる。
せつなが慎重に受け取ると、表紙には見覚えのある名前が刻まれていた。
「……これは?」
「“記録” だ」
亡者は不気味に微笑む。
「墓守の力は、死を刻み、弔うこと。だが……本当にそれだけか?」
本を開くと、そこにはせつながこれまで戦った相手の名前がずらりと並んでいた。
「これは……」
「お前が倒した者たちの魂だ」
せつなは息をのんだ。
この本に刻まれた名前は、単なる記録ではない。まるで、魂そのものがここに囚われているかのような——。
「墓守よ……試してみるといい」
亡者がそう言うと、本の中から一筋の光が溢れ出した。
次の瞬間、光はせつなの手に絡みつき、何かの力が流れ込んでくる感覚がした。
——これは、“力”だ。
「……そういうことか」
せつなは薄く笑みを浮かべた。
墓守の力はただの弔いではない。
これは、“失われた魂を刻み、その力を引き継ぐ” という能力なのだ。
「面白い……!」
強烈な興奮が全身を駆け巡る。
この力を使えば、どんな敵とも戦えるかもしれない。
——だが、その代償は?
亡者は薄く笑い、静かに言った。
「墓守の役目を果たすなら、お前は覚悟せねばならぬ」
——次回、「記録されし魂と、契約の代償」
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