第10話 魂喰らいの魔手、迫る試練

「さて……いよいよね。」


フィオナが杖を軽く鳴らしながら、ギルドの奥へと続く階段を見つめた。


「この先にいるんだろう? サーヴェルとかいう奴が。」


ケイルが剣を片手に、警戒を怠らない。


せつなは唾を飲み込んだ。


「……うん。でも、油断はできない。アイツは魂を喰らう魔術を使うって話だったよね。」


「ええ。しかも、ただの魔術じゃない。相手の魂を削り取る”禁忌術”よ。 一度捕まったら、二度と元には戻れないわ。」


フィオナの言葉に、せつなは背筋が寒くなるのを感じた。


魂が喰われる──。

それはつまり、死よりもさらに恐ろしい”存在の消滅”を意味する。


「……やるしかないね。」


せつなは覚悟を決め、墓守の杖を握りしめた。


彼女の力はまだ完全ではない。

それでも、できることはある。


「行こう。」


3人はゆっくりと階段を下り、地下へと足を踏み入れた。


◆◇◆


ギルド地下最深部。


そこは、まるで”異質な空間”だった。


天井は高く、壁には古びた魔法陣が刻まれている。

不気味な紫色の光が、そこかしこから滲み出ていた。


「……ここ、普通の空間じゃないな。」


ケイルが眉をひそめる。


「異界の力が満ちている……サーヴェルの影響ね。」


フィオナが慎重に周囲を探る。


「やあ、ようこそ。」


突如、闇の奥からゆらりと影が現れた。


黒衣を纏い、骨のように痩せ細った男。

その目だけが、ぎらぎらと光を放っている。


「サーヴェル……!」


せつなが警戒しながら呼ぶと、男は口元を歪めた。


「ほう……貴様が”墓守”か。なるほど、珍しい職業だな。」


「……私のことを知ってるの?」


「フフ……“知っている”というより、“待っていた”と言った方が正しいか。」


「……どういうこと?」


サーヴェルはゆっくりと歩み寄りながら、手をかざした。


すると、地下の壁に埋め込まれていた魂のような光が、一斉に揺らめいた。


「私は**“魂喰らい”**。人々の魂を喰らい、己の力とする者……。 そして、“墓守”はそんな私にとって、最も興味深い存在なのだよ。」


「……っ!」


せつなの心臓がドクンと跳ねた。


「墓守は、魂を”安らかに導く者”。 だが、私は魂を喰らう。“相反する者”同士……興味が湧かないわけがないだろう?」


「……悪趣味なこと言わないで!」


せつなは杖を構えた。


「ほう……戦うつもりか?」


「当たり前でしょ! あんたが奪った魂、全部取り戻す!」


サーヴェルはクックッと笑いながら、指を鳴らした。


「ならば、見せてもらおう。“墓守”の力とやらを。」


すると──


ギルドにいた冒険者たちが、無言で立ち上がった。


彼らの瞳は、光を失い、サーヴェルの意志に支配されている。


「……操られてる……!」


「ええ。彼らの魂は、すでに私の手の内。私が望めば、彼らはただの操り人形となる。」


サーヴェルはゆっくりと手を掲げると、冒険者たちは一斉に剣を構え、せつなたちに襲いかかった。


◆◇◆


「……くっ!」


せつなは素早く杖を振るい、操られた冒険者の剣を受け流した。


「彼らを傷つけずに倒す方法、ないの!?」


「簡単に言うな!」


ケイルは冒険者の剣を受けながら、舌打ちする。


「だが、やるしかねぇ……ッ!」


ケイルは刀の背で冒険者の首元を叩き、一人を気絶させた。


「そうやって一人ずつ……倒すしかない!」


「……いや、それじゃ間に合わない!」


せつなは奥のサーヴェルを見る。

彼は微笑みながら、まるでこの戦いを”遊び”のように楽しんでいる。


「こっちが手間取ってる間に、アイツはまた新しい魂を喰うかもしれない……!」


「……なら、やることは一つね。」


フィオナが前に出る。


「私の力で、彼らの魂を”繋ぎ止める”!」


フィオナが詠唱を始めると、杖の先に淡い光が灯る。


「“魂結びの鎖”よ、迷える者たちを縛り、安寧へと導け──!」


すると、操られた冒険者たちの体がピタリと止まる。


「やった……!?」


「いいえ、一時的なものよ! このまま”魂を喰われる前”にサーヴェルを倒す!」


「……わかった!」


せつなとケイルは、一気にサーヴェルへと駆け出す。


「フフ……面白い。」


サーヴェルは笑うと、指を鳴らした。


その瞬間、彼の背後の空間が歪み──


“何か”が現れた。


──それは、黒く蠢く”亡者”。


「このままでは終わらせないよ。“墓守”──君の本当の力を、もっと見せてくれ。」


「……っ!!」


闇が、彼らを包み込もうとしていた──。




次回予告:フィオナの力によって、操られた冒険者たちの動きを封じたせつなたち。

だが、サーヴェルの本当の力はこれからだった……!


黒き亡者の正体とは!?

そして、せつなの”墓守”としての力は目覚めるのか!?


次回、「絶望の縛鎖、解かれし封印」──。

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