第5話

なんとなくマサトラの動向を目で追う。



マサトラはある方向にまっすぐ向かい、その先にある自動販売機の前で足を留めた。



飲み物か。




小銭を入れ、迷うことなくボタンを押すと、買ったそれを握りしめこっちに戻ってきた。



それを開けることなく、私の前に差し出した。




「やる」


「は、」


「俺も今手袋持ってねえから。これであっためてろ」




受け取るよう促すように、手に持った缶コーヒーをゆらゆら揺らす。あっためてろって。




「別にいいよ。あんた飲みなさいよ」


「俺ダメ。微糖って甘い」


「何で微糖買ったのよ」


「適当。あっためる為だから何でもいいと思って」


「だったら自分の手温めなさいよ」


「ごちゃごちゃ言ってねえで持ってろ」




マサトラの手がのびてきて私の手を掴む。



ひんやりと肌を伝う冷えた感覚。

自分も冷たいじゃん。



掴まれた手を自分の方に引き戻そうとするも力は叶わず、マサトラは手を引くと手の平に缶コーヒーを乗せた。



熱が肌に浸透し、感覚が生き返るようにその温もりを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る