第3話 謎の街
「着いたよ〜! ここが私のお店兼家だよ〜」
千鶴に連れてこられて着いたのは、「アリアドネの糸」と達筆な字で書かれている看板が掲げられた、廃材を継ぎ接ぎでどうにか繋げてつくったように見える小さな建物だった。
「今、思ったよりボロいって思ったでしょ〜」
千鶴がニヤニヤしながら世奈の顔を見る。
「いや、そんなこと……」
「いいんだよ〜。この建物はね、壊れた部分しか直してないんだ。最初の建物のままの部分も結構残ってるの。いつかは全部直さなきゃいけないんだろうけど、今はまだ先延ばしにしたくてさ……さっ、早く入ろ! お茶淹れてあげるよ」
「今、中は意外と綺麗だと思ったでしょ」
またしても千鶴はいたずらっ子のような顔で言った。世奈はさっきから思考が読まれてるのではないかと恐怖した。
「はい……」
「正直はいいことだね〜。ここはお客さんを通す仕事用スペースだから特に気合い入れてんの。はい、お茶。あっ、大丈夫だよ〜変なものは入れてないから。飲んだら帰れないとかもないよ。飲まなくても多分帰れないからね!」
世奈は「今しれっと怖いこと言ったな」と思わず言いそうになったがお茶で流し込んだ。
「えっと、ここがなんなのかの説明をとりあえずして欲しいんですけど……」
「あ〜そうだね。えっとね〜私もよくわかってないんだよね〜」
「わかってない!?」
「そうそう。私も落ちてきたの、あなたみたいに外の世界からね」
「えっじゃあ『白い迷宮の箱』ですか?」
「何それ? 確かにここの名前は『迷宮市街』だけど」
千鶴は顔を見事に三十度ほど傾けた。
「違うんですか? 私はその都市伝説を試してここに来たんですけど」
「そんなのがあるんだね〜。だからかな、世奈ちゃんは他の落ちてきた人たちとちょっと違うのは」
「どう違うんですか」
「あんなに叫ばない」
「えっ」世奈の顔が赤くなった。「まだそれ言うんですか!」
「あはは、ごめんごめん。でも、本当にそうなんだよ。他の落ちてくる人はあんな風には来なくて、羽がふわふわ舞い落ちるような感じで落ちてくるからもっと穏やかだし、意識がなかったり寝てたりして気がついたら落ちてるって感じだからさ、世奈ちゃんは珍しいんだよ。私も気づいたら落ち終わってたし」
「そんな……」
「あとね、さっきも言ったけど人生に絶望した人が多いかな〜。だからこんな元気な子が来ることは珍しいの」
「そうなんですね。じゃあここは死後の世界的な? え? でも死んだ感じはしないし……でもあんだけ落ちて死なないっておかしいし……」
「まぁそんな難しく考えないで。今あなたはここにいて、私と話している。今はそれだけで十分だよ」
「そうですかね……」
「そうだ! これから世奈ちゃんはどうする? 元の世界に帰れたって話は聞かないんだよね〜。まぁ、誰も帰ろうとしなかっただけかもしれないけど。とりあえずここで生きてく方法を今は考えないと。世奈ちゃんは帰りたいかもしれないけど、帰る方法がわからない今、なんもわかんないからさ、ひもじい思いをしてあてもなく彷徨うのは嫌でしょ。だから職探そ〜」
千鶴は立ち上がると棚の引き出しをいくつか開けた。「あった〜」千鶴は地図を持ってきた。
「はい、ここ周辺の地図、迷宮市街四番区の地図だよ〜。本当ならお金をとるんだけど持ってないだろうしまけてあげる〜タダでいいよ〜」
千鶴の持ってきた地図は手書きだった。綺麗な字で建物の名前と思われるものが書かれている。どうやら道は複雑なようでとても細かい。迷う気しかしない。「迷宮市街」というのがこの街の名前らしいから、もはや迷わせにきているんじゃないだろうか。
「うんとね……ああ、ここ。人材紹介のボランティアをしてたはず。ここに行けば仕事見つかると思うよ。でも、選択肢はもう一つあって〜」
「もう一つ?」お礼を言って早速そこへ行こうとしていた世奈は少し浮かせた体を再びソファに沈めた。
「世奈ちゃん、あなたさえ良ければなんだけど……ここで働かない?」
鯨の夢〜迷宮市街で新生活を〜 楽方 @559080kyu
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