片付ける

第1話

夕暮れの薄明かりが

埃まみれの書斎に差し込む。


窓辺には古びた書棚がそびえ立ち、

その中に眠る無数の文字たちは、まるで過去の記憶の化石のようだった。


佐和子は指先で埃を払いながら

漱石の「道草」を開く


「世の中に片付くものなんてものはほとんどありゃしない。いっぺん起こったことはいつまでも続くのさ。ただ色々な形に変わるからほかにも自分にも解らなくなるだけのことさ」

夏目漱石 道草より


漱石の本のこの箇所を読んだのは幾つだったかしら。

特に心動くことなく、

若さのせいなのか

いずれ起こる災厄を知らなかったからか_

「道草」のキーワードは「片付かない」である。


これは、整理整頓の意味ではなく、

「片を付ける」、何かを「やり遂げる」という意味での

「片付ける」だ。

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