夢見る少女じゃいられない

すーぴーぱんだ

夢見る少女じゃいられない

 5分後に本番を控え、私はいつもの様にテレビ局内にある収録スタジオのカメラ横で瞳を閉じ、静かに深呼吸を始めた。間もなく、深夜バラエティ番組の企画で、曾てスターだった女性歌手とデュエットをするのだ。

 曲はママが運転する車の中でよく聞いていて、子供の頃から馴染みがあった。

 にしても、と私は思う。

 周りの大人達の、今回のこの盛り上がり様は一体何なんだ!?

 最初に騒ぎ出したのはママだった。高校入学と同時に神戸から一人で東京に出て来ているので、グループでのアイドル活動について、毎晩電話で伝えるのがMy家族ルールなのだが。

 いつもの様に、「ママの車でよく聞いていた歌手の人と今度番組で一緒に歌うよ」って、「今日は親子丼を作って食べたよ」と同じ調子で伝えたら、一瞬間が空いた後、「激アツ!」と叫んだのだった。

 何でもママは、昔で言う所の、その人の「追っ駆け」とやらをしていて、全国各地のライブに足を運んでいたらしい。

 次に騒ぎ出したのはパパだった。何でもその人は、当時中学生だったパパの憧れの人だったらしくて。普段は娘の出ている番組なんてロクに見ない癖に、会社の部下の人達に宣伝しまくっているらしい。

 私はと言えば、この企画発表後、失礼の無いようにYouTubeで過去の動画を見返して、歌い方を研究したのだが。

 見れば見る程、その凄さが伝わって来る。

 迫力が桁違いなのだ。マイク1本で時代に斬り込んで行ってやる!って勢いで。

 歌は20年以上前の恋愛ソングなんだけれど。17歳の私が今聴いても、曲も歌詞も胸に刺さりまくって。

 夜中に一人、涙を流しながらMVを見ては、「夢を見ていないで、現実を見据えて頑張ろう」と励まされたりするのだった。これはママやパパがドハマりするのも無理はないな。

 と言う訳で、楽屋挨拶もちゃんと尊敬の念を抱いて出来て良かったんだけれど…

 一つ問題が。

 脚がめっちゃ細いのだ。3児のママなのに私の3分の2の太さしかないってどういう事よ!?

 隣に並んで欲しくないんだけどなと思っていたら―

『夢見る少女じゃいられない』のイントロが流れて来たのだった。

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