第30話

ノートパソコンを鞄にしまい、立ち上がる。部屋を出ようとすると、





「龍成、お前もいつかこの椅子に座る日が来る。それを常に頭の中に入れて行動しろ。自分のしたことに責任を持てるようにな」


「……」


「聞いているのか?」


「…うん。聞いてるよ」





これ以上父さんと話したくなくて、ドアを閉めた。




─結局、父さんが答えた中に、俺や母さんのことは何一つなかった。



最後の質問で、『家族の為』、なんて、父さんが言うわけないと思っていたけど、もしかしたら、なんていう思いは、心の隅にあった。



微かにあった希望は、呆気なくチリと消えた。




『生きる為』。



そりゃそうだろう。それにしても、『生まれた時から決まっていた』仕事をする人生って何なんだろう。



父さんは社長をする為に生まれたのか?そして俺にもそれを求めてるのか?



じゃあ俺にも選択肢がなくて、また父さんと同じことを繰り返さないといけないってことか?



人を傷つけてまで?人に恨まれるようなことをしてまで?



疑問符が次々と溢れ、思考を占領していく。



母さんが俺に何か話しかけているようだけど、生返事を繰り返していると、気を遣ったのか呆れたのか、何も言わなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る