第8話

古そうな扉1枚を隔てた隣の部屋から聞こえる男女の会話。



どちらの声も聞き覚えは無い。



ここがどこかわからない。狭い空間。部屋…なのか?もやもやとする意識の中、冷静に自分の置かれた状況を分析してみる。



畳の上、拘束された手足、ガムテープのようなもので塞がれた口。



ああ、これが何度も言い聞かされた「誘拐」ってやつか。



どうにも動けず横たわっている自分に、恐怖よりも先に怒りが込み上げる。




─あれほど言われていたのに。



習っていた護身術も、ボクシングも、合気道も、何にも役に立たなかった。



きっとこの時の為だったのに。



みんなこうなることを恐れて、俺を心配して守ってくれていたのに。



バカやろう。



俺の、バカやろう。

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