『役立たずの荷物持ち』とSランクパーティから追放された俺、本当は【大賢者】です ~のんびり隠居生活を始めたけど、うっかり災害級魔物を倒してしまい、国中が大騒ぎしてるけど、俺はもう知りません~

九葉(くずは)

第1章 追放、そして大騒ぎ

プロローグ:追放の日

ずしり、と背負った荷物の重みが肩に食い込む。まあ、いつものことだ。

難関ダンジョン『深淵龍の巣』の攻略帰り。

ここ最近じゃ一番の長丁場で、さすがのSランクパーティ『竜の牙』の面々も疲労の色は隠せない。リーダーでイケメン(性格以外は)剣士のヴァルガスは無言で剣の手入れをしているし、紅一点の魔術師エレノアはローブの汚れを気にしている。盾役の大男ロイドは、はあ、と大きなため息をついたところだ。


…で、俺ことカイトはといえば、皆の分の荷物を背負い、ぶっちゃけ一番疲れているはずなのだが、そんなことは誰も気にも留めない。俺の役割は『荷物持ち』。パーティ内カーストの最底辺だ。戦闘にはほぼ参加せず、後方で荷物を管理し、キャンプの準備をし、たまに指示されたポーションを投げるだけ。それが俺の仕事…ということになっている。


「カイト」


不意に、低い声でヴァルガスに呼び止められた。ん? なんだろう。また何か雑用か? そう思って振り返ると、そこにはやけに真剣な顔つきのリーダーと、どこか同情的(?)な視線のロイド、そしてあからさまに嘲るような笑みを浮かべたエレノアがいた。なんだこの空気。


「今回のダンジョン攻略、ご苦労だった」

「はあ、どうも…」


珍しく労いの言葉なんて。明日は槍でも降るんじゃないか?


「それで、本題だが…カイト。君はもう、我々のパーティには必要ない」

「…………はい?」


え、今なんて? 必要ない?

俺は思わず聞き返した。ヴァルガスは、やれやれ、察しの悪い奴だ、とでも言いたげに、わざとらしく肩をすくめてみせる。


「だから、クビだと言っているんだ。君の仕事は、正直、誰でもできる。むしろ、もっと効率的に動ける荷物持ちは他にいくらでもいるだろう。我々『竜の牙』はさらなる高みを目指している。正直、君がいると足手まといなんだよ」


おお、なんというストレートな物言い。ここまでハッキリ言われると、逆に清々しい…わけがあるか。いや、ある。めちゃくちゃある。


(キタ――――――(゚∀゚)――――――!!!!!)


俺は内心、歓喜の雄叫びを上げていた。ついに、ついにこの日が来た! 待ってた! この時をどれだけ待ち望んだことか!


「そう…ですか」


しかし、ここで喜びを顔に出すわけにはいかない。あくまで俺は『パーティをクビになってショックを受ける役立たずの荷物持ち』を演じなければ。しょんぼりとした表情を作り、俯いてみせる。うん、完璧な演技だ(自画自賛)。


「まあ、君も薄々気づいていただろう? 最近の戦闘についてこれていなかったのは事実だ。邪魔なんだよ。」

エレノアが追い打ちをかけるように言ってくる。


まあ、戦闘には『参加しないように』していただけなんだが。魔力を使えばそこらの魔物どころか、ヴァルガスたちだって一瞬でぶっ飛ばせる自信はある。

あるけど、そんな面倒なこと、誰がするか。


ロイドが気まずそうに視線を逸らす。彼はメンバーの中では比較的まともな感覚を持っているが、いかんせん気が弱く、リーダーのヴァルガスには逆らえない。今回も、内心では思うところがあるのかもしれないが、口を挟むことはないだろう。


「…分かりました。今まで、お世話になりました」


俺は殊勝な態度でそう告げた。ヴァルガスは満足げに頷き、懐から小さな革袋を取り出して俺に放り投げる。チャリン、と軽い音がした。


「これまでの働きに免じて、多少の手切れ金だ。これで新しい仕事でも探すんだな」

「…ありがとうございます」


中身は確認するまでもない。雀の涙ほどの金貨だろう。まあ、いい。金なら、いざとなればどうとでもなる(物理的に)。


俺は背負っていた大量の荷物――そのほとんどはヴァルガスたちの私物や戦利品だ――をその場に降ろし、自分の最低限の荷物だけをまとめた小さな背嚢を背負い直す。


「じゃあ、これで」


振り返らずに、俺はギルドのパーティ控え室を後にした。背後でエレノアの「せいせいしたわ」という声が聞こえた気がするが、もうどうでもいい。


(自由だ――――――ッ!!)


数年間、このSランクパーティに所属していたのは、ひとえに『楽だから』、そして『人間観察のサンプルとして面白そうだから』という理由だった。


俺、カイトは、数百年前には【大賢者】なんて呼ばれて、魔王級の厄介な存在を封印したりもした。だが、その後の名声やら権力争いやらに心底うんざりしたのだ。永遠に近い時を生きられる不老の秘術を使ったはいいが、副作用で魔力の大半をセーブする代わりに見た目だけ若返ってしまい、なんだかもう俗世が面倒くさくなった。


だから決めたのだ。力を隠し、目立たず、騒がれず、ただ平穏に、のんびりと生きていこう、と。そのための第一歩が、この『荷物持ち』というポジションだったわけだ。戦闘は他のメンバーに任せておけばいいし、難しいことを考える必要もない。


それが今日、予想より少し早かったが、ついに終わりを迎えた。追放? 上等だ。むしろ感謝したいくらいだぜ、ヴァルガス。君のおかげで、俺は心置きなく次のステップ――本格的な隠居生活――に進めるのだからな!


ギルドを出て、王都の喧騒を抜ける。衛兵が立つ大きな門をくぐり、俺は振り返ることなく歩き出した。目指すは辺境。人の少ない、静かな場所がいい。小さな村で薬草でも育てながら、のんびり暮らすんだ。たまに読書をして、気が向いたら魔法の研究でもして…。ああ、なんて素晴らしいんだろう!


「さて、と。まずはどこに向かうかな」


空はどこまでも青く、俺の心のように晴れ渡っていた。元パーティのことなんて、もう欠片も頭にはない。俺の輝かしい隠居ライフは、これから始まるのだ!

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