首位打者に向けて
第2話
「99、100。ふう、ようやく終わった」
その日の晩から俺は毎日、素振りをした。ストレッチに、腹筋、背筋、それにランニングと思いつく限りのトレーニングを実行した。時間がある時にはバッティングセンターにも足を運んだ。といっても、俺は、大学に入るまでは野球は見る専門で、実際にプレイしたことはなく、ちゃんと指導を受けたことはない。大学も、野球サークルで、経験者は沢山いたが、練習が嫌いな連中が多い。本気で野球をやりたかったら、大学の野球部に入っているはずだ。うちの大学はそこそこ強いし、過去にはプロにも行った選手もいるぐらいだから。
所詮は、サークルレベルだから、ちゃんとした指導を受けていなくても頑張れば、本当に首位打者を狙えるかもしれない、そう思ったのだが。
「ああ、今日も全部三振だったな」
次の試合、自分でも軽くバットは振れたのに、ボールにさえかすりもしなかった。それでも、
「川越君、スイングよくなっているよ。かなり練習したんやない」
そう菜月ちゃんに言われた時は嬉しかった。しかも、
「ああ、毎日素振りしてるから」
「やっぱり、そうなんやね。でも、おしい。手打ちになってたよ。一度、バット振ってみて」
菜月ちゃんに言われて、俺はバットを振る。
「やっぱり、手で振りにいってる。こう、膝を曲げて、下半身で打つイメージで振ってみて」
菜月ちゃんは、そう言って俺に見本を見せてくれた。菜月ちゃんのバッティングフォームは俺よりも何倍も綺麗だった。間違いなく打撃は菜月ちゃんの方が上手い気がする。
「菜月ちゃんって、実は野球経験者だったりする?」
「そんなことないよ。私は、指導受けているのを見ていただけやから。実は高校時代も野球部のマネージャーやっててん。その時の監督がすごく指導うまかったから。今、川越君に言った事、実は監督がとある選手に言ったことの受け売りなんや」
菜月ちゃんはちょっと照れたように頬を赤らめる。
「そうなんや。でも、すごくわかりやすいよ。菜月ちゃんに見てもらったら、俺、ほんまに首位打者になれそうな気がする」
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