第1話 レンドル王子の肖像画(文語調?)

 これは、山茶花さまの自主企画への物語。今昔物語巻第二十七「人の妻、死にて後旧の夫に会へる語 第二十四」の翻案作品です。

 今昔物語(元ねた)と一緒に読んでいただくと、より楽しめるかと思います。


https://kakuyomu.jp/works/16818093075767751469/episodes/16818622170128614702


 (今まで書いたことのない文体に挑戦しましたが、あやしい?文語調となってしまったかもしれません。)


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 ウィルランド王国を治める王家に第一嫡子あり、皇王より名をマルガレッタ・ウィルゼルと給う。此の王女、絶世の美女として、隣国の王子や公爵とも殿方にて語られ、いわんや越海の大国においても、御名を知るところとなる。此の地、乱世の時にあり。小国ウィルランド王国とはいえ、数有る金銀、鉄の良産地という事なり。その財力を使いて傭兵を雇い、是を持って、王国の防衛を成し得た。高山地帯に在るといえども、ウィル王家は富を成した。その民の多く、牛を飼いて平穏なる暮らしを営み、飢える事なしと聞く。

 しかし此の王家に王子なく、王女の二十歳の誕生日を迎るに、のちの王とならん王子を、養子として他国より婿入むこいれする事となる。多数の申し出を受けるも、此の地で最も大国となるルブラン国、第三王子レンドル・ブランが選ばれし良しとなる。此のルブラン国には、肥沃な穀倉広地あり。また、堅固な軍隊を擁する事、聞知ぶんちおよぶ事なり。この婚礼の内に、戦略的な思いのうかがえし意図あり。しかして此の王女、いたくレンドル王子を気に入り、承諾の好機と成り得た。


 婚礼の儀、王国を挙げての盛大なる祝祭となり。迎えしレンドル王子の肖像画、著名なる宮廷画家、カッセル・ロドにより描かれし。しかり、ウィル王宮の黄金の間に、王妃の肖像画と共に掲げられる事となり。この時より、此の王宮の繫栄のほまれといわれおよぶ。

 御二人は幸福な日々を過ごしていたが、老王が病いに臥床するに急し、かねてより不仲であった隣国、ジェランド皇国軍の侵入を過ち戦争となる。新王子は即座に軍隊を率いて応戦に至る。不義なるも、ルブラン国の援軍を得る事なし。此れ、彼国ルブラン第二王子の嫉妬の故とのうわさあり。

 やがて戦況の悪化、余儀なくも果敢なる戦いののち、此の新王子の戦死の悲報が届く事となった。程なく、ルブラン第二王子の率いる、ルブラン国の援軍が到着した。苦戦のウィルランド王国軍、戦況を好転し、敵軍を背走に帰す。時、此処ここに終戦を得た。

 戦果を得、凱旋したルブラン第二王子は、マルガレッタ王女を第二妃とし、ルブラン直轄ウィル国と国名を改め、かつてのウィル王宮を居住の城とした。一転、第二妃となったなマルガレッタ王女は、此れ新たなる王子として媚び慕った。非常成るも、故レンドル王子の肖像画は、その座を廃され地下に死蔵された。それ、現直轄ウィル国王となったルブラン第二王子の肖像画が、その位に掲げられた。此ののち、国政は安定し、長らく平和な時期を続ける事となった。

  

 やがて直轄ウィル国王(ルブラン第二王子)は齢を重ね、ルブラン王を継承し、第一王妃の住む故郷ブラン城に居を移した。しかし、マルガレッタ第二王妃はウィル王城にとどまった。御一人で暮らすに至り、無き夫婿であるレンドル王子を懐かしむ様となり、地下に死蔵された、彼の肖像画を探し出し、自室である寝室の小部屋の壁面に掛け置いた。

 その頃より、王妃は誰一人も小部屋に入る事、ようよう拒むに至る。しかして新年を迎える事なく、御隠れになった。訃報、直ちにブラン城に届けられた。王は精鋭の家来をして、昼夜、馬を走らせウィル王城に駆けつけた。此の時、此の王城を出て以来の再開は悲史として語られた。

 御遺体が安置された王妃の小部屋に入ると、窓より朝日が指し入る事、まことに静寂なり。亡王妃の眠る床の傍ら、壁に掛かるがくに向かう。故レンドル夫に見守られしと思い見入ると、驚く事に、此れ、彼の肖像画にあらず。古びた髑髏の絵姿を、恐ろしく写すものなり。そののち、此の絵画は「呪われし絵」と呼ばれ、ついぞ、此の王城(彼のウィル王宮)に居住する者はいなくなった。のちに廃墟となりて滅び、今日まで伝わり聞く事となる。

 

 今この肖像画は、国立歴史博物館に所蔵されている。

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レンドル王子の肖像画 アイス・アルジ @icevarge

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