第13話

「っ綺羅ちゃん!?」



未玖ちゃんが俺を呼び掛ける声を無視して、俺は衝動的に綺羅ちゃんを追い掛ける。




―…一瞬だったけど、涙が見えた。


理由はわからないけど、彼女の涙を見るのは初めてだった。



…好きな子が泣いているのは辛い。早く、掴まえなきゃ。






「――っ綺羅ちゃん!」



やっと追い付いたその手を捕まえて、俺の方に体を向かせる。


見下ろした顔はやっぱり涙で濡れていて、ギュッと胸が苦しくなる。



『――弥彦先輩、最低ですっ!』



しかし、涙の理由を尋ねる前に、俺の手を思い切り振り払われてしまった。



「綺羅ちゃん……?」




そして、不意打ちに言われだ最低゙に、…動揺を隠せない。



好きな子に、涙ながらに言われた罵倒の言葉が、胸に痛く染みてくる。



「綺羅ちゃん。俺、何かした……?」



涙の原因が俺なのか、何が最低なのか、疑問と不安の声色でそう尋ねる。



『してたじゃないですか!さっき!』


「さっき……?」


『人に散々好きだ付き合ってだって言っておいて、先輩は他の子とキスが出来るんですね!』


「え…?キスって……?」


『とぼけないで下さい!さっき、未玖とキスしてたじゃないですか!?』



涙を流しながらそう言う綺羅ちゃんを見つめながら、俺はさっきの出来事を思い出す。


さっき未玖ちゃんとはキスしてた訳じゃなく、演奏の仕方を教えようとしてて…

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