第9話

―…あの日。まだいると言う西原を音楽室に残して、俺は帰路につく。





………という事がすぐに出来ず、音楽室より少し離れた所――徒歩で10秒程かかる所にある中門まで向い立ち止まり、後ろをゆっくり振り返った。



中門からは、音楽室の明かりが付いているか付いていないか位は確認できる。




まだ、明かりが付いている―…、出てきたばかりなのにそう思った俺は



明かりが灯るその場所を見つめながら、暫くそこから動けなかった。






理由は、よくわからなかった。



ただ単純に、もう大分暗くなっている時間帯に、遅くに女の子が一人で帰るのは危ないと思った。



もしかしたら、何かの事情で残っている彼氏か友達を待っているのかも知れない。



待っている事の目印として、自分が放課後から身を置くあの場所に明かりを灯し、あの古臭いソファーで本を読んでいるのかもしれない。




(……でも、)



只でさえ今日は土曜で、部活が早く終わって。


それから今までずっと、あそこにいたって言うのか…?




色々思考を巡らせながらも、音楽室のある方へ向けた体を、中門の方へ向き直せずにいた。





例えば誰かを待っていなかったとしても、あの場所で見た姿が楽器を持っている姿だったなら、俺は何も気にせずに帰っていた。


自主練頑張れー…なんて軽く言葉を残して、携帯を見つけたらすぐに去っていた。




…でも、西原は本を読んでいた。


自分の教室や、図書館や家でではなく“部室”で。




それが、変に気になった。





……結局、5分程そこにいたけど。


明かりが消える様子は全く無くて。 何かが動く様子も全く無くて。


俺は一つ息を吐いて、踵を返し、正門へ向った。





いつからなのか。なんでなのか。何があったのか。


…今日だけなのか。




胸の奥底に微かに生じた疑問と違和感。


それを振り切るかのように、足早に自分の家へと目指した。






こんな事を気にするのは、俺らしくない。

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