第6話
……が。
「テレサは十年後も十六だろ? まだ早ぇよ」
子供なんて早い早い。
その意見にはエステラもジネットも賛成のようだ。
だが、テレサはぷりぷりと頬っぺたを膨らませて抗議してくる。
「はやく、なぃぉ! あかちゃん、すき、ょ!」
いや、好きだとしても。
「まぁ、バルバラを育て上げたテレサだからね、子育ては得意かもしれないよ」
「あれ、エステラの中ではそういう認識になってんの?」
まぁ、当たらずともって感じか。
「テレサさんは、どんなお子さんがいいですか?」
「ふたご!」
あぁ、セロンとウェンディのとこの子供を気に入って「可愛い可愛い」言ってたからな。
影響されたのか。
でも、大変だぞ、双子なんて。
「それか、2ダース子!」
「単位変えんな!?」
さすがに多過ぎるわ24つ子!
野球チーム、補欠と監督含めて2チーム作れちゃうよ!?
「双子さんは育児が大変だと聞きますよ? テレサさんは平気ですか?」
「へいち! こんなふうに――」
――と、テレサが中空を指さして、おのれの中の妄想を語り出す。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
テレ子1「あぁー!」
テレ子2「まぁー!」
ヤシロ「どうした? ご飯か、おむつか? あぁ、やっぱり双子は大変だ……」
テレサ「大丈夫ですか、あなた? ここは私に任せてください。オーウェン流育児術、双子流星乱舞! たぁぁあー!」
テレ子1・2「「きゃっきゃっきゃっきゃっ!」」
ヤシロ「おぉーっ! まるで夜空を流れる流星群のように華麗な動きで、みるみる育児が進んでいく! さすがだ、テレサ! 俺が選んだ伴侶なだけはあるぜ☆」
テレサ「うふふ。あなたったら」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「いや、誰ですか!? テレさーにゃ、こんな感じになるですか!?」
「……テレサは未来の魔性の女候補」
「なんでテレサがオーウェン流を使ってるのさ……ナタリアに弟子入りとかしないでよ。アレが増えると、ボクでは捌ききれないからね」
「テレサさんは、こんな素敵な大人の女性になりたいのですね」
「ぁい! かじも、いくじも、かにぱんしゃのおしごとも、みんな、ぜんぶ、やぅの!」
「それは頼もしいですね。でも、育児休暇は遠慮なく申請してくださいね。福利厚生の整った組織を作るのが、私の理想ですので」
「ぁい!」
……テレサ、お前の野望はデッカいな。
つか、「やぅの!」とか言ってるヤツがみんな全部完璧に出来んのか?
……出来ちまいそうだから怖いんだよな、この次世代チルドレンどもは。
「うふふふ……」
みんなの勝手な想像や妄想を聞いて、ジネットが楽しそうに笑っている。
もうすっかり照れは抜けているようだ。
「十年後、この街はどんな風になっているんでしょうね」
「さぁな」
そんなもんは、十年後になってみないと分からん。
だがまぁ……
「陽だまり亭は変わらずここに建ってて、ジネットは変わらず楽しそうに料理をしてるんだろうな」
「それはボクもそう思うよ。そして、そうであってほしいと願うね、心から」
「……マグダも、陽だまり亭と店長には変わらないでほしい」
「あたしも、この場所が大好きです! 十年後も今と変わらず、いや、今以上に好きになってるですよ、きっと!」
「そのころにもまた、この場所で皆様とこうして楽しいおしゃべりが出来れば、私はきっとその時間を『幸せ』だと感じるでしょうね」
「みんな、いっしょ!」
十年って年月は、確かに大きい。
だが、突き詰めていけば、それは一日一日の積み重ねで、一日やそこらで人は変わらないわけで、だからつまり――
きっと十年後も、俺たちは何も変わらずにここでこうして無駄話をしているのに違いない。
この場所に陽だまり亭があり、そこにジネットの笑顔と美味い料理がある限りはな。
異世界詐欺師10周年記念SS『10Years After ~てんいやーずあふたぁ☆~』 宮地拓海 @takumi-m
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