異世界詐欺師10周年記念SS『10Years After ~てんいやーずあふたぁ☆~』
宮地拓海
第1話
その日俺たちは、陽だまり亭のフロアに集まり、とりとめもない会話に終始していた。
まぁ、要するに、とある暇な午後のひとときってヤツだ。
「お兄ちゃんは、十年後どうなってるですかね?」
きっかけは、ロレッタのそんな言葉からだった。
「十年後は……Dカップくらいにはなってるかもな」
「させないよ」
「いや、エステラさん、ツッコミのワード間違ってるですよ!?」
ブレないエステラにロレッタが鋭く突っ込む。
だがな、エステラ。
好きこそ物の上手なれというし、コレだけおっぱいが好きなんだから、俺だって成長する可能性があるじゃないか。
「……十年後、胸が大きく育っている可能性があるのは、マグダ」
「まぁ、確かに、年齢的にはそうかもな」
「待って! 期待値とか不確定の未来の可能性を加味するのであれば、ボクだってDくらいには――」
「『くらい』って、エステラさん、随分強気ですね!?」
可能性は無限大というし――
「エステラも、それくらい成長する可能性は秘めてるよな☆」
「だよね! ありがとうヤシロ!」
「お兄ちゃんが向こう側に!?」
「……ヤシロ的には、大きなおっぱいが増えることは純粋に喜ばしいこと。ならば、応援くらいするのがヤシロという男」
「ブレないです、お兄ちゃん!?」
そうだとも。
エステラの胸が育つと、ぺったんこイジりは出来なくなる。
だが、それがなんだ!?
「大きいことはいいことだ!」
「そうだ! ヤシロの言うとおりだ!」
「とはいえ、エステラさんはお兄ちゃんサイドに立っちゃダメだと思うですよ!?」
「……エステラだから仕方ない」
「よし、じゃあみんなで十年後のおっぱいについて語り合おうぜ!」
「いや、違うですよ!? あたしがしたかったのはそんな話じゃないです!」
自分からおっぱいの話題を振ってきたロレッタが、折角の興味深い話題を打ち切ってしまう。
「もう、なんのお話をされているんですか?」
「ダメですよ、ヤーくん」
「えーゆーしゃ、めー、よ?」
ジネットを手伝い、お茶の準備をしに行っていたお子様~ズが戻ってくる。
キレイにカットされたリンゴが皿に並んでいる。
「カンパニュラが皮を剥いたのか?」
「はい。ジネット姉様に教えていただき、テレサさんにはカットを手伝っていただきました」
「お二人とも、とっても上手でしたよ」
ジネットの採点は甘々だからな、話半分くらいで聞いておこう。
しかし、カンパニュラが剥いたというリンゴはなかなか見栄えがよかった。
「じゃあ、一つもらおうかな」
「感想を聞かせてくださいね」
誰が皮を剥こうが、リンゴの味は変わらないのだが……
「うん、美味い」
「本当ですか!? ……はぁ、ほっとしました」
頑張った分くらいは、報われてもいいだろう。
「お兄ちゃんは、絶対子煩悩な父親になってるですね」
「なんのお話ですか?」
「十年後、お兄ちゃんは何してるですかね~ってお話です」
「あぁ、なるほど」
全員のカップにお茶を注ぎ、ジネットが俺の向かいに座る。
「ヤシロさんなら、きっとそうなっていますね」
「十年後にガキがいるとは限らんだろうが」
「子沢山かもしれないよ? だって、ヤシロは子供が大好きだから」
「この街の領主の目がフシアナ過ぎて、十年後の未来が不安で仕方ないよ、俺は」
「教会に張り合っていたとしても、ボクは驚かないけどね」
何人ガキを生む気だ……結構な数いるぞ、教会。
「俺はロレッタの両親か」
「そーゆーツッコミやめてです! ちょっと心臓が『ぅちゅっ!』って変な音しちゃうですから!」
けど、この街一番の子沢山だからなぁ。
「十年後も、順調に増え続けてるんだろうなぁ、ヒューイット弟妹……」
「その頃には、さすがに……両親も歳ですし……たぶん…………出来れば…………だといいなと思わなくもないですが……………………増えてそうで、なんかイヤです」
ロレッタの元気が萎れてしまった。
十年やそこらで萎れないだろう、お前の両親。
「……ロレッタが両親の跡を継いでいる可能性もある」
「襲名制じゃないですよ、ウチ!? それにあたしは、お姉ちゃんと弟と妹が一人ずつの三人姉弟あたりがいいです!」
「いや、一番上は男にしておけ。ヒューイット家には長女が残念になる呪いがかけられているから」
「かけられてないですよ、そんな呪い!?」
「……ぁ、本当だ」
「かけられてないって言ったですよ、あたし今!? ちゃんと聞いてたですか、マグダっちょ!?」
わきゃわきゃと、隣同士の席で戯れるマグダとロレッタ。
十年後は、こいつらもここにはいないかもしれないな。
独立して。
「十年後、私は今よりもっと立派なウェイトレスになっていたいと思います」
「いや、カンパニュラ。お前はそのころ、もうぼちぼち領主になる準備してるか、もうなってる頃だから」
十五歳で成人とみなされるこの街だからな、きっとその頃には三十区で施政に携わっているか、オルキオのそばで学んでいることだろう。
「ですが、そうなると今後もますます躍進を遂げ続けるであろう陽だまり亭は人手不足になってしまいませんか? 十年後でしたら、マグダ姉様もロレッタ姉様もきっと独立されているでしょうし」
「……平気。マグダの店はこの店の向かいに建てる予定だから」
「客の奪い合いが発生するわ」
独立するなら、もうちょい遠くに店を建てろ。
「そのころには、きっとマグダさんのご両親もお戻りになられているでしょうし、家族三人で楽しい食堂を経営されているかもしれませんね」
「……ふむ。……それは、すごくいい」
マグダの両親が帰ってきたら、マグダは親元へ帰るのかもしれないな。
……まぁ、マグダファミリーは全員狩猟ギルドの人間なのに、なんで家族で食堂やってんだってツッコミかけたけども。
野暮は言うまい。
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