第八章 復讐のまち針

――――第八章 復讐のまち針


 いじめがエスカレートしていく中で、恋美の心には徐々に黒い感情が芽生え始めていた。特に、百々の意地悪な言葉や態度が、恋美を深く傷つけていた。「泥棒」……その言葉が頭の中で何度もリフレインし、悔しさと怒りで胸が張り裂けそうだった。

「どうして私だけこんな目に遭うんだろう……。」


 ある日、一人下校する途中、恋美は百々がバスケ部のキャプテンである川田 弥来かわだ みらいと楽しそうに話しながら歩いているのを見かけた。けれど弥来はいつも明るくて、誰にでも優しかった。百々が恋美をいじめていることも知っているはずなのに、見て見ぬふりをしている。それは彼、弥来が百々の彼氏であり、彼の最優先は百々であったからだ。恋美はそんな偽善者の弥来のこともどこか軽蔑していた。百々にとって一番大切な存在である弥来に何かあれば、少しは百々も苦しむかもしれない……そう思った瞬間、恋美は無意識のうちにポケットに入れていた魔法のまち針を握りしめていた。恋美はいじめがエスカレートしてから、まち針だけはほかの人に触れられてはならないと思い、常にポケットの中に入れるようになっていた。いつでも刺せる状態が、恋美をよりまち針のとりこにしていった。

 次の日、クラスで弥来がプリントを配っている時、恋美は意を決して彼の近くに歩み寄った。そして、誰も気づかない一瞬の隙に、弥来の左腕に魔法のまち針を一本刺した。弥来は小さく声を上げたが、すぐに笑顔で「はい、次」とプリントを配り続けた、虫か何かだと思ったのだろうか。恋美は心臓がドキドキしながら自分の席に戻った。これで、何かが変わるかもしれない……。

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