DEMON CAPRICCIO
黒岩祐希
Episode00:Bye-Bye to dear children
──もしも生まれる前から幸せが奪われていたと最初から理解していたら、その子は己が運命を憎むのだろうか? それとも生み出した人間を憎むのか?
この計画の最終目標がズレ始めてからからずっと、氷火氷麗の頭の中でこの独白が頭の中で堂々巡りしていた。
「……こんな形で産むことになって、ごめんな……」
広く仄暗い実験室に聳え立つ胎児が入った無数のカプセル、その中の『No.001 Icy』『No.002 Ignite』と書かれた名札の間にへたり込み、涙ぐみながらぼそりと呟いた。
「正直、お前らにこんな、愛し愛されるための手を血に塗れさせるようなこと…………させたくないなぁ」
声がわずかな残響として消え、涙ぐみながら溢れた言葉を吐き出し始める。
氷火氷麗は理解していた──否、飲み込むしかなかった。
元々は人類の一歩先へ進んだ生命体、悪魔との共存を目指した筈なのに何処で歯車が狂ったのか、或いはそう考えたことそのものが間違いだったのかもしれない。実験初期に悪魔の持つ力──魔力を身に宿した胎児が生まれたことがトリガーになって、平和を目指した筈のプロジェクトはいつしか悪意によって濁り始め、氷麗が気付いた時には''人類を撲滅するための兵器''の培養へと計画が置き換わっていた。
その胎児こそ氷麗が卵子を提供したIcyとIgniteであり、彼女の血を分けた実子とも言える存在であった。
「だからさ……せめてものプレゼントに、名前を考えたんだ。……私からあげられるものは……これしかないから」
涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながら氷麗は胸ポッケを弄り、青と赤色の二枚の『雪那』『紅那』と書かれた粘着メモを取り出す。
そしてそれを『Icy』と書かれたネームプレートの上に青色の『雪那』の紙を、『Ignite』の上に赤色の『紅那』と名前が書かれた紙をそれぞれの名札の上に貼り付けた。
「生まれてきてありがとう。雪那、紅那……」
抵抗ならとっくにした。だがこの研究に参加していた大多数が「この世界に絶望していた」人間が大半を占めていたせいで、氷麗のか細い抗議は掻き消されていった。
これが贖罪に足るとは彼女自身到底思っていない。流されていたとはいえ実の子の手を血で染めようとする行為に加担したことは変えようの無い事実で、いつかの未来で雪那らが許すとは思っていない。
「そして、これからあなた達の在るべき笑顔を、私たちの悪意で汚すことになって……ごめんなさい」
そう言って氷麗は雪那と紅那に背を向けて、小走りで実験室を立ち去った。
『私は憎まれてもいいし、あなた達になら殺されるならそれでもいい。でも、どうか自分がこの世に産まれたことだけ、それだけは後悔しないで……』
彼女が与えられる、最初で最後の母の愛を置き土産にして──
DEMON CAPRICCIO 黒岩祐希 @Kuroiwayu-ki
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