第4話 宣伝と期待

朝日が昇る前から、修造は動き始めていた。「わくわく商店街祭り」まであと3日。今日は宣伝活動に全力を注ぐ日だ。


修造は昨夜遅くまで、黒崎の本屋で借りたパソコンを使ってチラシのデザインを考えていた。デザインソフトの使い方も瞬時に習得し、驚くべき速さで作業を進めた。出来上がったデザインは、プロのデザイナーも舌を巻くほどの完成度だった。


「これなら必ず人々の興味を引けるはずだ」


修造は早朝の静かな街を歩きながら、家々のポストにチラシを投函していった。チラシの印刷は、三浦さんの銭湯の事務所にあるプリンターを借りて行った。インクと紙は三浦さんが快く提供してくれた。


時折、早起きの住民と目が合うと、笑顔で挨拶を交わす。


「おはようございます。来週末の商店街祭り、ぜひお越しください」


数時間後、チラシ配りを終えた修造は商店街に戻ってきた。そこでは既に店主たちが準備を始めていた。


「皆さん、おはようございます。今日は宣伝に力を入れる日です。それぞれのお店でも、お客さんに声をかけてください」


黒崎が不安そうに尋ねた。「でも、最近は常連のお客さんも減ってきているんだ。誰に声をかければいいんだろう」


修造は優しく微笑んだ。「大丈夫です。たとえ今は来店が減っていても、かつての常連さんの記憶には、このお店の良さが残っているはずです。その思い出を呼び覚ますような声かけをしてみましょう」


店主たちは頷き、それぞれの店に戻っていった。


修造は次に、地域の小学校に向かった。事前にアポイントメントを取ることはできなかったが、幸運にも校長先生と直接話をする機会を得た。祭りの趣旨を熱心に説明する。


「子供たちに、地域の魅力を知ってもらう良い機会になると思うんです。学校でチラシを配布させていただけないでしょうか」


校長先生は興味深そうに聞いていた。「面白い試みですね。確かに、子供たちが地域に興味を持つきっかけになりそうです。ただ、学校での配布は難しいかもしれません。代わりに、校門前でのチラシ配布なら許可しましょう」


修造は喜んで同意した。「ありがとうございます。ありがたく配布させていただきます」


昼過ぎ、修造は地元のコミュニティFM局を訪れた。受付で事情を説明し、担当者との面会を粘り強く交渉した。


「私たちの商店街祭りを、番組で紹介していただけないでしょうか。地域の活性化にもつながると思うんです」


ディレクターは少し考えてから答えた。「面白い企画ですね。明日の朝の情報番組で、5分程度ですが紹介させていただきます。ただし、生放送なので、あなたが直接出演して説明していただけますか?」


修造は少し緊張したが、即座に承諾した。「はい、喜んで。必ず魅力を伝えられるよう頑張ります」


夕方になると、修造はSNSの活用について考え始めた。自身はスマートフォンを持っていないが、佐藤美咲の雑貨店「ハピネス」で、店のSNSアカウントを使わせてもらえることになった。


「佐藤さん、本当にありがとうございます。SNSの使い方、教えていただけますか?」


美咲は笑顔で答えた。「もちろんよ。一緒に投稿内容を考えましょう」


二人で協力しながら、魅力的な投稿を作成していく。ハッシュタグの使い方や、写真の撮り方なども美咲から学んだ。

美咲は感心した様子で言った。「修造さん、覚えるの早いわね。これなら私も安心してSNS運用を任せられそう」


そのまま修造はSNS上で人気がある大量のアカウントなどを記憶し頭脳で瞬時に解析した。

「よし、理論上はこれでアスセス数は100倍になるはずだ。明日の昼には結果確認だな」と修造。

明日の午後にアクセス数を見た美咲が飛び上がることを、修造は知る由もなかった。



夜になり、修造は疲れた体を引きずりながら商店街に戻った。そこには、同じように一日中宣伝に励んだ店主たちが集まっていた。


「皆さん、お疲れ様でした。今日の成果はいかがでしたか?」


ゆかりが明るい表情で答えた。「思った以上に反応が良かったわ。久しぶりに来てくれたお客さんもいたのよ」


松田も頷いた。「ああ、懐かしい顔ぶれも見られたよ。みんな祭りを楽しみにしてくれているようだ」


修造は嬉しそうに笑った。「それは良かった。明日からは、さらに準備に力を入れましょう。お客さんの期待に応えられるよう、最高の祭りにするんです」


しかし、黒崎が心配そうに口を開いた。「修造、君は本当によく頑張ってくれている。でも、体は大丈夫なのか?ちゃんと食事は取れているのか?」


修造は少し困ったように笑った。「大丈夫です。皆さんのおかげで、なんとかやっています」


店主たちは顔を見合わせた。そして、ゆかりが決意を込めて言った。「修造さん、これからは私たちに遠慮しないで。食事のことは任せてちょうだい。みんなで持ち寄って、毎日の食事を用意するわ」


他の店主たちも同意し、修造のために協力することを約束した。修造は感激して、言葉に詰まった。


「みなさん...本当にありがとうございます。この恩は必ず返します」


その夜、修造は久しぶりに温かい食事を口にしながら、明日への期待を膨らませていた。宣伝活動の手応えは確かにあった。しかし、本当の勝負はこれからだ。


寝床に横たわりながら、修造は今日一日を振り返った。チラシ作り、配布、学校訪問、ラジオ局との交渉、SNS投稿...全てが初めての経験だった。しかし、その一つ一つが新鮮で、やりがいを感じられた。


「こんなに充実した日々を過ごせるなんて...」


修造は感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。かつて自分を助けてくれた人々に恩返しができる。その喜びが、疲れた体に新たな活力を与えてくれる。


「もう一踏ん張りだ」


そう心に誓いながら、修造は静かに目を閉じた。明日もまた、新たな挑戦が待っている。


ーーー

次回、「予期せぬ危機」

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