Day2

「...きて.........い!」


「んぁ?」


「おき......だ...い!」


「なにぃ?」


「おきてください!もう何時だと思ってるんですか!」


「...ほぇ?」



凛が目を覚ますと10:34を示すデジタル時計を片手に持った国民的アイドル(元)胡蝶菜乃花が立っていた



「あ、やっと起きたんですね!おはようございます!凛さん!」



午前中とは思えないくらいの笑顔を振りまく彼女の顔に凛は一瞬目を奪われたがすぐに現実に直面する



「ななななな何で菜乃花さんがここにいるんですか!?私の部屋ですよね!?」



凛は寝起きの回らない頭をフル回転させる



(昨日は菜乃花さんが自分の部屋に帰った後、晩御飯を作って食べたりお風呂入ったり歯磨きしたり読書したり...アレ?やっぱりなんで菜乃花さんがここに居るの?)


「何で私がここに居るのか?と思っていますね」


「あっはいそうです」


(エスパーかな)



菜乃花はふふんと鼻を鳴らしながら凛の部屋にいる経緯を話し始める



「やっぱり恋人になったからには相方のサポートをする事が大切だと思うんですよね!」


「いやいや、それじゃ理由になってないですよ...私玄関の鍵閉めてましたよね?どうやって開けたんですか?」


「受付の人に言ったら合鍵をくれました」


「何やってんの受付の人!」


「というわけで...これからは私が凛さんをサポートしますね」



菜乃花がグイッと凛の顔に顔を近づける

凛はそれに驚いて顔を赤くしながら目線を逸らすが、菜乃花は左手で凛の肩を、右手で凛の顎を持ち無理矢理目線を合わさせる



「っ...なっ、何するんですか」



弱々しい声で凛は質問をするが菜乃花は至って余裕そうに答える



「何って...恋人がまずすることと言えばおはようのちゅーじゃないですか」


「ばっ!...私達の関係はメディアのほとぼりが冷めるまでの利害の一致ですよね!?」


「別にこんな事する必要ないんじゃ...」


「...凛さんは私とキスするの嫌ですか?」



菜乃花は上目遣いで問う



「...昨日菜乃花さん恋愛経験が無いって言ってましたよね」


「えぇ、言ったけど」


「だったらこんな状況で無理に恋人のフリする必要なんて無いですよ、いつか、本当の恋をした時にその相手にしてあげて下さい」


「......」



へへへと笑いながら菜乃花を諭す凛の笑顔を他所に、菜乃花の表情は少し暗く、落ち込んでいるように見えた



(...あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!勿体ねぇぇぇぇぇ!!!!!!?????)



そして凛は心の中で絶好の機会を逃した事を叫んでいた



「...わかりました、凛さんがそうおっしゃるのならそうします」


「あっ分かっていただけて嬉しいです」


「...はい」



いつもよりも少し低い声で菜乃花が返事をするがすぐにいつもの声色になる



「あの、凛さん」


「もう11時になりそうなんですけど大丈夫ですか?」


「えっ」



凛が時計を確認すると10:58と表示されていた



「ゴミ出しもなにもしてない!」



凛は慌ててベッドから降りて部屋を見渡した



「.....ん?なんか部屋が昨日より片付いているような、それになんか美味しそうな匂い?」


「あっすみません凛さん、実はさっきまで部屋のお掃除とゴミ出しをして朝ごはんを作ってました」


「えっ嘘!?」


「すいませんありがとうございます!!わざわざそんな事していただいて...そうだ!何かして欲しいこととかありますか?出来る範囲でならやりますよ!」


「私が勝手にしただけですからそう気にしないでください」


「いえ!それでもしてもらった事に対するお礼くらいさせて下さい!」


「.....じゃあ1つ良いですか」



菜乃花は真剣な表情をする



「今日、私とお出かけして下さい」



       〜〜〜〜〜〜



ざわざわと周囲の人達がざわついているのを尻目に菜乃花は凛の口へケーキの乗ったフォークを近づける



「凛さん、あーーん」


「ちょっ菜乃花さん流石にそれは無理です」


「何でですか?」


「何でって」



凛は周りへ目を向ける



『アレ比折菜乃花じゃない?』

『隣にいるのって例の恋人?』

『初めて本物見た』

『凄い美人』


(流石にこんな状況であーーんを受け入れるのは出来ない...というか何で菜乃花さんはわざわざ騒ぎになりそうな事するの!?)


「もしかして嫌でしたか?」


「えっ!?」


「...すいません、勝手に私の気持ちを押し付けてしまって」



菜乃花はしょげている犬の耳と尻尾を生やしてシュン...と縮こまる



「嫌とかじゃ無いです!頂きます!」



凛は早口でOKサインを出して差し出されたフォークを口に入れる。口の中へ広がったのはフォークの冷たさとやや酸味の強いイチゴケーキの味だった



『おぉぉぉ!!!』と周りからは歓声が上がるが菜乃花は凛の口へ一度入ったフォークに、凛は間接キスをした事実に夢中になっていた



       〜〜〜〜〜


(間接キスからの記憶が曖昧だ)



凛と菜乃花はケーキを食べ終わったあとに真っ直ぐ家(マンション)へと帰ってきた



「やっと着きましたね、菜乃花さん」


「ですね、なんか今日はいろいろ疲れちゃいました」


「私もです」



お互い微笑み合い今日1日の楽しい時間が終わろうとしていた



(もう少しだけ一緒にいたかったな)



凛は仕事柄外に出ないので、気持ちのリフレッシュも兼ねて充実した時間を過ごすことが出来た



「それじゃあ菜乃花さん、さようなら」


「え?はい」



両者別れの挨拶をして各部屋に戻る......ハズだったが



「ただいまー」


「えっ...ただいまって事はもしかして誰か居るんですか?あっお邪魔します」


「ほぇ?」



菜乃花は凛と一緒に部屋へと入ってきた、それはもうとても自然に、まるで、自分の部屋かのように、だ



「なんで入ってきてるんですか!?」


「あと誰もいないです」


「恋人役なら同棲が普通では?」


「私達は『仮』ですよ!今日は帰って下さいね!」


「えぇーー、分かりました...帰りますね、さようなら」



パタンと扉が閉じられてさっきまでの和気藹々とした雰囲気はなく静寂が訪れる



「...なんで私ドキドキしちゃってるんだろ」



仮の関係であるのにも関わらず一緒にいて居心地が良い事に対してドギマギしながら凛はの1日はゆったりと終わっていくのであった

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