第94話

ママはそう言うと、パンが載せられたお皿をダイニングテーブルに運びに行ってしまった。


久しぶりに、その響きで呼ばれた。


小さいときに私に向けてくれていたのと変わらない愛情を、10年以上経った今でもたしかに感じた。


ママが自分の恋愛の話をすることなんて初めてで、私は結構驚いていた。


いつも明るくてのほほんとした人だけど、昔の話はあまりしたがらないから。


パパとのことも、私には隠しているんだと思っていた。だから私は一人取り残されたような心細い気持ちになって、もがいていたのに。


さっきママの声で語られたそれは、愛しい思い出話みたいだった。


でもそうだとしたら、どうして。今まで何も教えてくれなかったのだろう。



ちょうどその時玄関が開く音がしてお父さんが帰って来たのが分かったから、私はそこで考えるのをやめてしまった。

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