第81話

「見て下さい、幸坂先生。月がすっごく綺麗ですよ!」


この神秘的に美しい瞬間を共有したくて幸坂先生の方を向くと、先生は優しく微笑んで私を見つめていた。


月明かりを浴びるその姿は、いつもよりもいっそう危険で甘やかだった。


「やっと笑った。そうやって笑いたい時に笑えばいいし、泣きたい時には泣けばいい。一人で頑張らなくていいんだよ。お前の不安とか恐れを受け止めるために、俺たち大人がいるんだから。」



その声に、その瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。


私にはこのまま朝が来なくて、一生この夜に閉じ込められてしまっても良いと思った。


この人がいて、真っ直ぐに私に向けられたこの言葉があるだけで、私は生きていける。



どんなに私が背伸びをしてみたって、どうやったって幸坂先生の方が何枚も上手で、私はそんな彼にそそのかされているみたいだ。


飲んだこともないアルコールが頭に回ったみたいに、正常に頭が回らないまま気持ちだけが先走って口をついて出た。


「好きです、幸坂先生。本当に、好きなんです。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る