第78話

どんなに手を伸ばしても届きそうにないって思っていた幸坂先生の手が、今は向こうから私に触れていることが信じられなくて、私はしばらくぼんやりしていた。


この大きな手に縋ってしまいたいと、そう思った。


面倒なことは嫌いだ、なんて言いながらも、切れ長の瞳を細めてどこまでも優しい言葉をくれるこの人が、どうしようもなく好きだ。


幸坂先生が頼りないはずなんてなくて、きっと私がつらいって言ったら「もっと早く言えよ」って手を差し伸べてくれるって分かってる。


分かっているからこそ、それをしてはいけないとも思う。


だって、私は幸坂先生にもっと世界のときめきを、素敵なところを教えてあげたいのに。


それで、あなたの隣に並ぶのに相応しいくらい強い大人になりたいのに。


今のままだったら、私が彼に暗闇を明るくしてもらってばっかりだ。


幸坂先生は私に質問の答えは求めずに、黙って作業を手伝ってくれた。


暗幕の修復作業はもうほとんど終わっていたので、二人でやったらすぐに片付いた。

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