第59話

「う、うん。びっくりしたあ。かっきー、ありがとう。」


危険を知らせるようにまだバクバクとうるさい胸のあたりを、冷や汗が滲んだ手でぎゅっと抑えて頷く。


かっきーの私よりもずっと大きな手の感触を思い出して、どんなに可愛くても立派な男の子なんだなあと今さらのように感じた。


「あの子…この間柿原に告白してた子でしょう?追いかけてきたの?」


私とぶつかってから一度も止まらずに階段を駆け下りていった、私たちと同じ制服を身にまとった女の子が消えた先を幾分険しい目で見つめながら奈々ちゃんが口を開いた。


私の背中をとんとんと優しくさすってくれて、私はやっと安心して息をつけた。


「うん。ちゃんと断ったつもりだったんだけど結構取り乱しちゃってて。念のために追いかけて来てよかった。すみれちゃんが足滑らせたの見て、心臓止まりそうになったよ。」


「ごめんね、私がぼんやりしてるせいでヒヤヒヤさせちゃった。あの子は大丈夫だったと思うけど、転んだりしてないといいなあ。急いでたみたいだし。」


「今のは向こうが悪いわよ。」


奈々ちゃんは若干苛立たし気にそう言ったけれど、すぐに切り替えたみたいに肩をすくめてからゆっくりと歩き始めた。

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