第八話 雪のはち

 

◇◇◇

 

 なんで、なんで?

 偶然、ホントにたまたま進学する高校が被っただけなんだろうか。


 でも……いや、そうとしか考えられない。

 私は自分の志望校をアリサにも、それどころか同じ学校の誰にも話したことはなかったはずだし。


 制服の採寸という用事を済ませるために、そしてお母さんたちも同伴するとなったら出発しないわけにもいかず。

 頭の中でグルグルと『なんで?』が渦巻いていながらも、みんなの後ろを着いてくように私もトボトボと歩きはじめた。


 チラと盗み見たアリサは、私のお母さんとなにかを話しながらニコニコしているし。

 中学卒業を機にパッタリと縁が切れてしまうかもと思っていたアリサと、まさか高校生活でも同じ学校で過ごすことになるとは……。


 嬉しいのは嬉しいんだけど……でもそれ以上に、やっぱり心のどこかに引っ掛かってしまうモヤモヤはあって。

 隣を歩いているアリサのママとお話ししながら、胸の中を漂うもどかしい気持ちの置き場に私は困ってしまったのだった。

 

◇◇◇

 

 道中の電車の中でも私からアリサに話しかけることはなかった。


 小学生のときに、なんの気兼ねもなく話しかけらていたのが夢だったみたいで。

 今の私の目に映ったアリサとの間には、きっと躊躇とか数年分のブランクとか、そういう隔たりによって透明な壁が出来上がってしまったようだった。


 高校に到着して、必要な採寸や申し込みもあらかた終わって。

 お互いの母親が手続きのために離れている間、私たちはふたりきりで待つことになっちゃったんだけど。


 アリサがポツポツと話しかけてくれてきても、私は純粋にその会話を楽しむことができなかった。

 やっぱり気になる。どうしても、確認しなきゃ気が済まない。


「ねぇ……アリサ」


「えっ? う、うん! なに?」


 ソワソワと胸を焦がす嫌な胸騒ぎを解消するためにアリサの話を遮って。

 いつの間にかずいぶんと差が生まれてしまった視線を合わせるために、となりの女の子を見上げながら……。


「なんでアリサはこの学校を選んだの?」


 ようやくその質問を口にすることができた。


 ジッと見上げたアリサの瞳はかすかに震えたように見えて、チラチラと視線が逃げるのを我慢するような、まるでそんな感情のゆらめきが漏れ出ているようにもみえたのだけど。

 視界の端っこで、アリサの唇がギュッと噛み締められたあと。


「だって……雪がこの高校に入学するから」


 そんな短くて、あまりにも悲しい答えが返ってきたのだった。


 あぁ……そうじゃなければ良かったのに。

 そんな理由だけは、なによりも一番、違って欲しかった。


 『私が入学するから』の、その先の言葉なんか聞きたいとは思わなかった。


 どんな続く理由があったとしても。

 私なんかがアリサの選択を、未来を、左右してしまった現実は変わらないのだから。


 新しい場所で好きなことをたくさんして、かけがえのない出会いもいっぱい経験して、多くの人に憧れるような活躍をし続けて。

 どんどん素敵な女性になったアリサは、いっぱいいっぱい愛されることができたはずなのに。


 私は生まれて初めて、アリサと幼馴染じゃなければ良かったと……心の底からそう思ったのだった。

 

◆◆◆

 

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