青いバラが落ちた日に
@nyo___1115
第1話
この世の中は狂っている。
今住んでいるま裏で、犯罪や戦争が行われていたりしていても、誰も気に止めることなく笑っている。なのに、その話題になるとあたかもずっと考えていたかのように泣き始めたり討論し始めるやつが出てくる。
僕はそんなヤツらが嫌いだ。
だから、ずっと孤独だった。
最後に友達と言える人にあったのは、もう二十年前くらいなのではないだろうか。もちろん恋人もいなければ、家族とも縁をほぼ切っている状態にある。
この思いを母に告げた時母は考えすぎだと言った。みんなそこまで考えてこなかったことは考える必要が無いと言った。当時小学校三年生だった僕には綺麗事のようにしか思えなかった。
世界は綺麗事で回っている。
誰かがそう言っていた。
そうだ確かあれは僕が、首うを吊ろうとしていた高三の冬のときだった。
世界では勉強したくてもできなこたちがうんざりするほどいるのに、僕なんかが勉強する立ち位置にいてもいいのか不安になって自殺を試みた時だった。
部屋に無造作においてあった小説のタイトルがそうだった。
「世界は綺麗事で回っている」
これを見た僕は、漠然に喜びを感じた。
そうか。そうか。僕だけがこの世界の表面だけ綺麗な見せ方に嗚咽を覚えている訳ではないのか。この作者もきっと嗚咽を覚えているだろう。そう思ったら、少しだけ肩の力が抜けたのを覚えている。
そんな僕も今じゃ普通に進学して普通の会社に入り上司にペコペコ頭を下げながら生きている。
これが普通の人にとっての日常で、これが普通の人の生き方なのだと信じていた。
僕は、地球の真裏の人の事まで考えているからこそ自分だけは神の御加護で安心安全な生活が送れると思っていた。いや、願っていた。
そんなある日、僕の会社で殺人事件が起きた。犯人は僕の同僚で、入社してすぐの頃は相手から誘われてたまに昼ごはんを一緒にしていた。
正直驚きが隠せなかった。
殺害されたのは、この会社の受付のスタッフの遠藤さん(58)人柄が良くて、クレームの入りやすい受付スタッフなのに遠藤さんのクレームは入ったことがなかった。
加害者の齋藤は、人懐っこい犬みたいな性格のやつだった。茶髪であゆるふわパーマをかけていることから見た目も犬のようだった。僕は彼のことを人殺しだと聞いても嫌いになれなかった。
会社は警察が捜査にはいるため二週間お休みとなった。
こんな物騒な事件が起きているのにもかかわらず、会社の人たちは休めて嬉しいなどと不謹慎な発言をしていた。何人かは旅行の計画までも立てていた。
僕は納得できなかった。
齋藤が、人殺し。
遠藤さんが被害者。
齋藤とはもう部署も違うのであまり会う機会はなかったが、齋藤の娘が三歳になり、保育園に入れなかったことから会社と委託している保育所に娘を預けていることだけは風の噂で聞いていた。
齋藤に娘ができたのは以外ではなかったが、奥さんもバリバリのキャリアウーマンだとは思えなかった。
僕は、齋藤の家に行ってみることにした。
奥さんがどんな人か知りたいし、奥さんもきっと齋藤が殺したわけが無いと思っているだろう。
遠藤さんの家にも行きたかったが、家は分からないし突然亡くなった方の家に行くのは失礼だと思いやめた。
齋藤の家に着くと、やつれた顔の奥さんが出てきてくれた。
奥さんに僕は齋藤がなんで殺人なんかしたか解りたいんです。ただそういった。
奥さんはたまに声をうわずらしながら答えた。
「少し前に子供が急に外に出るのを嫌がるようになって、理由を聞いても答えてくれないし、元気もなくてご飯も大好物のスイーツも残していて夫と悩んでいたんです。そしたら夫が遠藤さんっていう受付スタッフの人がいるんだけどその人の子供も中学生の時不登校になったけど、今は元気に暮らせているって言ってたって。だから遠藤さんにどうしたらいいのか聞いてみるって。それから家に遠藤さんが来るようになって、夫も私も遠藤さんに色々話を聞いてやれること全部やったあげたんだけど、遠藤さんが来れば来るほど子供が、元気を失って行って。もう分からなくて絶望していたんです。もしかしたら子供の元気がないのは遠藤さんなんじゃないのかなって言うくらい。でも会社で娘と遠藤さんが関わっているかなんて分からないし、関わっていたとしてもあんなに優しそうな人が娘になにかするわけないからどうしよっかって話していた次の日なんです。次の日夫は、何も言わずこの家から去っていって、机の上には今までありがとう。ごめんな。って書き残しだけがあって。そしたら夫が逮捕されたって聞いて、私も何があったか分かりません。」
ああなんだそういうことか。僕はすぐに分かってしまった。
三歳の幼い綺麗なバラを枯らしてしまったんだ。
齋藤と話をしたい。
警察にお願いした。
警察はムリの一点張りだったから、 僕の仮説を説明した。
警察は渋々僕と齋藤を合わせてくれた
「久しぶりだな。お前の娘遠藤さんにレイプされたんだろ。」
「久しぶりだな。よくわかったね。娘のためにも妻のためにも誰にも言わないで墓場まで持っていこうとしたけど、頭のキレるお前なら分かっちゃうよな。遠藤にあなたが来ると娘はもっと怖がるんです。何か知りませんかって聞いたら赤飯を渡されてな、これでわかったんだよ。あいつ自分の娘にもレイプしていたらしくてな。娘はレイプされたくないから学校に行くようになったらしい。俺が馬鹿だった。こんなセキュリティガバガバなところに預けるんじゃなかった。はあ。娘のことを思うと俺は死にたくなる。どうしてもっと近くにいてやらなかったんだろう。まだ三歳だぞ。三歳でも記憶に残るものは残るし、過去もトラウマも消えない。あいつだけは世界のために殺してやったんだよ。」
「うん。僕が齋藤の立場でも殺していると思う。君は人を殺した。人間失格だ。でも娘を思う気持ちこれは本物の父親だ。遠藤さんはわずか三歳の子供を痛みつけた。心も体も。人間失格だ。」
僕は拘留所から出て、久しぶりにキャスターマイルドを吸った。
性犯罪者が一人殺されたところで、性被害は無くならないし、齋藤の娘の傷も癒される訳では無い。遠藤さんの罪も齋藤の罪もなかったことにはならない。
それでも僕の隣に座っているカップルたちは笑っているし、会社の人たちは休日ライフを楽しんでいる。世の中綺麗事ばかりだ。反吐が出る。
青いバラが落ちた日に @nyo___1115
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