父 台湾~赤尾木

 ここで父の経歴について少し話します。父は1939年(昭和14年)に台湾で生まれた。もともと祖父母は奄美大島にいたのだが台湾が日本統治の頃、サトウキビ工場の責任者の募集があり、それで祖父母と長男、長女とで移住した。台湾で次男と次女と三男(私の父)と四男が生まれた。そこでは大きな屋敷でお手伝いさんが何人かいるような裕福な生活を送っていた。父が6歳の小学校に入る前に太平洋戦争の終戦を迎えた。終戦を聞いた祖母はそのまま泣き崩れたそうだ。きっとこの先を考えた時の不安がその時点では受け入れ難かったのではないのだろうか。この終戦時に台湾は他のアジアの地域に比べるとマシだったのだとは思われるが、治安が乱れ、心配した工員数名が港まで送ってくれたそうだ。憲兵や他に現地の人に意地悪をしていた日本人たちはこの時にかなり痛い目にあったということらしい。 台湾から引き揚げる時に船の中でコレラ患者が発生して横浜の沖でしばらく停泊していたそうで、陸が見えているのに上陸出来ずにすごく歯がゆい思いをしたのだそうだ。横浜から赤尾木までポンポン船で来たのだがたくさんの人に出迎えられたらしい。見物に来た人も多数いたのだろうとのこと。そんなこんなでやっと奄美大島に帰って来たのが小学校1年の二学期だったそうだ。

 赤尾木には米軍から2度の攻撃があって、子供の頃はみんな送受信の無線塔を鉄塔と呼んでいたそうで1度目は無線の送受信所の職員の奥さんと子供が機銃掃射で亡くなったそうだ。この鉄塔こと無線塔は軍事目的で建てた訳ではなく実は産業振興に寄与して欲しいと島民の期待を込めて建てられたものだった。1ヶ月後に2度目の攻撃があり、この時の空襲で赤徳国民学校が全焼して集落の3割が焼失したということだ。父は戦時中はまだ台湾にいたので誰かから教えてもらった話なんだろう。集落のあちこちにバクダンゴモリと呼ばれる爆撃後の大きな穴があって、水が溜まって池になっており子供たちがそこで泳いでいたりして、その近くを歩くと陸に上がっているカエルが一斉にその池に飛び込むのが不思議な光景だったそうだ。小学3年生の頃に同級生が不発弾の信管で遊んでいて、爆発して亡くなり、一緒にいた上級生も指が無くなったということも思い出したかのように話していた。

 次男である父の兄は今で言うところの知的障害があって祖父はこの兄にかなり厳しくしていたので父はこの兄に同情的であった。この兄は台湾を大変恋しがったのでそれを見かねた誰かが沖に行けば台湾が見えるよと教えたらしく、小舟に乗って沖に漕ぎ出して行ったのだが舟には穴があったようで沈んで亡くなってしまった。それを見ていた人が、沈んでいく小舟から父の名を叫んでいたと言っていたそうだ。まだ小学6年生だった父の名を呼んでいたのはきっと泳ぎが出来たから呼んだのだろうと父は言っていたがこの兄に父が親切にしていたからではないのかと思えてならない。

 クジラが赤尾木湾に迷い込んできたことがあり、近くの集落からも舟を出してクジラを仕留めたのだが、集落のみんなが浜で見物していて、子供なんかはみんな木登りして見ていた。大人も木に登って見てる人がいたそうだ。

 旧暦の5月にはハマオレという行事が行われ昔は稲穂についた害虫を後ろ手に海な投げたりしてたそうで、その時に運動会や舟漕ぎ競争をして弁当を食べたりしながら日が暮れるまで賑やかに過ごすのだが、昔は闘牛や競馬なんかも行われていたそうで父の先輩の中学生が競馬で大人に勝って1等になったと大変盛り上がったこともあったそうだ。大人たちはこれらに当たり前のように賭けをしていたのだがこの時使ってたのがB券(話を聞いた後にいくつか調べたがB円というものだったようだ。母もB券と思ってたようで単なる2人の勘違いなのか、集落ではB券と呼ばれていたのかは不明)でこの頃はまだアメリカの占領地だったので沖縄もそうだったように日本とは違う貨幣が使われていたそうだ。

 父はそれだけ言うとしばらく黙っていたが信じられないがウソではないことだけはわかる。それにしても不思議な話だ。と、また考え込むように黙ってしまった。私自身も考えれば考えるほど不思議でならない出来事であった。

 今は3月だというのに朝夕は13℃と冬のような寒さです。

“フィックッション“

 風邪でも引いたのかな?くしゃみが出てしまいました。皆様も風邪には気をつけて下さい。

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ケンムンぬ夢? 南の島から @minaminoshimakara

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