第26話 生存者
「あれ? あそこに何かあるね?」
ネコ娘が森の出口付近を指さした。
「ほんとうじゃ。おや? あれは荷車か? いや、馬車かもしれんぞ? 行ってみよう。」
シャドウディーラー5人と一緒に、森の出口付近の何かの残骸の方へ向かう。
車輪、荷車だか馬車だかの残骸、その他にも、積み荷だったものっぽい箱や樽が散乱してる。
「この残骸からみると、馬車ですね、これは。 うわ、仏さんが3体もあるぞ・・ どれも今さっき命絶えた感じですね。ってことは、さっきのグルアッシュに襲われたんでしょう。南無阿弥陀仏・・。」
先頭を歩いていた仕込み杖の男が、散らばってる残骸を拾い上げながら言った。
「ふむ。グルアッシュが狙ったってことは、なにか食べ物が積んであったってことじゃろうの。 あぁなるほど、これが原因かもしれんぞ。」
リーダーがバラバラになった樽の残骸から指で何かをぬぐい取った。
「それは何ですか?」
シャドウディーラーのメンバーがリーダーを取り囲む。
「これは、ハチミツじゃな。 珍しい物を持っとる連中じゃの。 ここの残骸、何かまだ残っとるかもしれんぞ、皆も探してみて貰えんか?」
シャドウディーラーのメンバーが残骸の確認を始める。
「あ、ありましたよ、このフォークは銀ですよ。おっと、こっちはスプーン、これも銀製だ。」
「これは奇麗な布、シルクじゃないかな?」
「こっちには水晶を使った飾り物のようなものがありますよ。」
「この樽は塩が入ってますね。」
「ふむ・・。これは単なる旅行者ではないようじゃの。かといって、商人とも思えんし、儂らのようなシャドウディーラーの格好もしておらん。 ということは、可能性が最も高いのは盗賊、もしくは強盗団ってところじゃろうか。」
「そうですね、商人にしては、積み荷に一貫性がないですからね。」
シャドウディーラーたちは、議論をしながらも、次々と何かを発見しては、自分たちの積み荷に加えていってる。
「アタシたちも探してみようよ。」
「おう。」
ネコ娘と、少し離れた場所を探し始めた。
「あれ、なんだろう、これは・・ あっちに生き物がいるよ。」
ネコ娘が耳をピクピクっとさせて、草むらの奥を指さした。
「え? 生き物? グルアッシュ? そりゃヤバイだろ。」
「ちがうな、この匂いは・・ あれ? この感じは、人間かな?」
ネコ娘が草むらの草をバサッとかき分けた。
「わぁ、やっぱり人間だ!」
「え? 生存者ってことか? 気をつけろよ。 どれどれ?」
ネコ娘の後ろへ回って、草むらの中を見る。人間っていうか、子供だな。
動いてないぞ。この子も既に仏さまになってるのか?
「大丈夫、この子、まだ息があるよ。」
ネコ娘が子供の胸のあたりを指さす。
確かに、ゆっくりと胸が動いているのが分かった。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ、聞こえるか?」
子供を大きく揺らしみるが、目は開かない。
「とにかく皆のところへ運びましょうよ。」
「そうだな。」
オレが子供を背負って、馬車のところまで運び、草の上に寝かせた。
「ほほう、これは子供じゃの。盗賊団の子供なのか? いや、子連れの盗賊団はいないじゃろうから、奴隷代わりの下働きかもしれんの。 どっちにせよ、一人だけでも生存者がいて良かった。で、どうするのじゃ?」
「子供をこのまま放っておくのも可哀そうだから、あたしたちがヴァルトベルクまで連れて行くよ。街にいけば医者も居るだろうしね。ねぇ、いいよね?」
ネコ娘がオレの方を見た。
「あぁ、そうだな。レジェンドってのは弱気を助ける義務もあるからな。」
「ほうほう、そうかそうか。それは、儂らにとっても、この子のことを心配せんで良いので、渡りに船じゃ。」
「そういえば、いま森を出たところだけど、この先はどうするの?」
ネコ娘がリーダーの方を向いた。
「うむ。それがちょうどタイミングも良く、いま森を出た、この場所が、儂らと貴君らとの分かれ道になる場所だったんじゃよ。」
「え? ここでもうお別れなの?」
「あぁそうじゃ。 ここからヴァルトベルクまでは、ここをずっと真っすぐ、3時間も歩けばつくじゃろう。」
リーダーが東の方角を指さした。
「儂らは、まだまだ、ここから2日は歩いて行かないと行かんのじゃよ、街でビールで乾杯までは、あと2日はお預けってことじゃな。 ホッホッホ。」
「そうなんだ、あと2日も歩くんだ、結構遠いんだね。」
「まぁ、貿易なんて、距離が離れれば離れるほど、運んでる物の価値があがるわけじゃしの。 貴殿らも気を付けて、あと、この子供のこともよろしく頼んだぞ。」
「うん、わかった、ありがとう。」
「今回は本当に助かった、感謝する。皆さんも、引き続き良い旅を。」
2人で手を振ってシャドウディーラーの一団を見送った。
「さ、あと3時間ってことだから、行くとするか。 オレはなるべく早くヴァルトベルクに戻りたいしな。」
「うん、行こう。あと3時間でヴァルトベルクか。アタシ初めてだから楽しみだな。」
まだ意識の戻らない子供を背負って、東へ向けて歩き始めた。
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