第23話 一緒に?

「ほほう、それは面白そうなお話ですな。少し聞かせてもらえますかな。」


そういって、仕込み杖を構えたままの黒衣の商人に向かって軽く片手を上げた。


それを合図に仕込み杖の男は、杖を元に戻した。


シャドウディーラーの一団、5人が草の上に座り込み、それに向かい合うように、オレとネコ娘が座った。


「まずはアタシたちからよね。名前はニーニャ、ネコ族の末裔よ。少し前までヴァンダニアのマグメトリア監獄に居たわ。そうね、子供の頃、5歳ころからからずっと、投獄されてたの。そこに、昨日の夜、この人が運び込まれてきたの。」


ネコ娘がオレを指さした。まぁ、流れ的にも、オレが説明する番だろうな。


「オレは朝倉信玄、ハードボイルドでダンディな孤高のレジェンド探偵と呼ばれてる。信じて貰えないかもしれないが、オレは異世界から召喚されて転移してきた。」


「ほほう、それはますます興味深いお話ですな。儂も商売柄、色々な話を聞いておるが、理由も理屈もわからんが、その転移と言う話は実際あるらしいからの。実際に転移してきた、という御仁に会ったのは初めてじゃが。」


「そうか、オレの他にも転移者が居るのか。ま、そうだよな、招聘術ってのがある位だもんな。」


「してからに、貴殿は誰の召喚術で召喚されたのかの?」


「おっと、そこは、オレの仕事に関わる部分なんで、詳しくは話せない。すまないが、クライアントの機密が守れないようでは、レジェンド探偵とは呼ばれないのでな。ただ、招聘された場所はシュバリアのヴァルトベルクだった。そこでなるべくダークサイドの情報を集めようと活動してるうちに、ヴァンダニアのスパイ活動をしてる拠点の店に入っちまったんだ。」


「ヴァルトベルクにあるヴァンダニアの拠点と言ったら、バーのラ・ミラージュじゃな?」


「いや、店の名前は分からない、というか、店にはカーテンがかかってて、看板の電気も切れてて、店名を読むことも出来なかったんだ。」


「そうか。儂は、その名前だけは聞いたことがあるのだが、行ったことはないでの。で、その後はどうなったのであるかの?」


「あぁ、そこで、オレは、あ、説明が前後してしまうが、オレは実は特殊任務の都合上、ヴァルトベルク宮廷の広報のIDが与えられてたんだ。で、それを持ってるのが見つかっちまって、ヴァルトベルクのスパイだと疑われて、そのままヴァンダニアのマグメトリア監獄に連れてこられたった、って訳だ。」


「なるほど、そこで、2人は知り合った、とういう訳じゃの?」


「そうなの。この人が連れてこられたのは深夜だったわ。朝まで目を覚まさないで寝てたわね。それからが面白くて、アタシがこの人にヴォイドベルの話をしたの。そしたら、この人、それを自慢げに審問官の前で、オレはヴォイドベルの幹部だ、とか言い出しちゃったのよ。」


ネコ娘がケラケラ笑ってる。


「なんと、審問官に自分がヴォイドベルだと言ったのか? それも幹部だと?それじゃ、即処刑されてしまうではないか。何がしたかったんじゃ?」


「ね、面白い人でしょ。 それでスパイ容疑が晴れたって喜んでたのよ。」


「いや、ヴォイドベルなら処刑だとか教えてくれなかったじゃないか。」


「誰も、自分でヴォイドベルを名乗れ、なんて言ってもないでしょ。」


「なるほど、そうか、ヴォイドベルのことを知らないっていうことこそが、確かにこの御仁が異世界からの転移者である証じゃの。」


「そうなの。アタシも転移が何とかとか、ハードボイルドエッグだとか、パンティだとか、孤高のグルメだとかって、ちょっとイカレちゃってる人かと思ってたんだけど、自分の処刑をかけてまで、ネタ突っ込んで来るわけないんで、あ、本当に転移者なんだって、信じることにしたの。」


なんか多少ワードが間違ってるような気がするけど・・まぁ、いいか。


「で、ヴァルトベルクに連れてってやるから一緒に脱獄しようって言われて、今脱獄してきたところって訳なの。」


「ほーほっほほ。想像以上に面白い話じゃったの。して、ここからどうやってヴァルトベルクへ行きなさるのじゃ?」


「今の所、案はない。なにせ、オレは転移してきたばかりで、ここが何処かも解ってないからな。」


「ほーほっほほ。そんなにハッキリわからんって言う御仁も珍しい。さらに面白いぞ。よし、儂らはこれからヴァルトベルクの近くを通ので、そこまで一緒に行くかね?」


「え? それはありがたい。 ほら、どうだ、やはりオレと一緒に居るおかげで祝福された世界線に居ただろ?」


ネコ娘の右肩を軽く突っついた。


「いや、正直に言うと、儂が助けたいのは貴殿ではなく、ネコ族のお嬢ちゃんのほうなんじゃがの。」


「え・・。 は・・? なんでですか?」


「ほれ、儂らの守り神はネコ様なのでな。ネコ族も大切にしなきゃならん。」


そう言って足元に纏わりついている黒猫の頭を撫でると、黒猫が「にゃっ」と鳴いた。


え、オレ、この宅配便のキャラみたいなヤツとネコ娘のおかげで助かったってこと?


ネコ娘が右の眉毛を軽く上げながら、キッとした視線でオレを見てる・・。

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