第11話 【ニーニャ】見える?

 最初に牢獄に放り込まれてきたこの男を見た時には、単なるイケてないオッチャンだと思ってた。でも、話をすると、話を一万倍位に盛って話す、中二病をこじらせたようなオッチャンだと気が付いた。今も、どこかの探偵小説のストーリーみたいな話を真面目な顔でしている。もしかして、悪気がなく、本当に中二病をこじらせてるんだろうか? ただ、話は面白かった。つい、男の両手を取って、握手してしまった。


オッチャンの手を握った、その時・・・。


突然頭の中に映画でも映写されているように、何かの光景が映し出された。ナレーションのような音声も入っている。この声って、あのオッチャンの声だ。



殺風景な部屋、ドアが乱暴に開けられた。


「なんだよ、大家だからって、ノック位しろよ。」


「偉そうなことは家賃払ってから言いな! そんなことより、こちらは町内会のスミさんだ、大事なネコちゃんがしばらく帰ってこないそうなんだ。相談乗ってくれよ。」


大家の後ろには、おばあさんが立っていた。


「ちっ、レジェンド探偵をロハでこき使おうって魂胆かよ。 まぁ、良い。どうぞ、こちらへ。」


おばあさんが事務所に入った。


冷蔵庫の中には、1ヵ月まえから何も入っちゃいない。


ガスは止まってるからお湯も湧かせない。


水道水をコップに入れて、出した。


「まぁ、冷たいものでも飲んでくれ。」


大家もおばあさんも、水道水の入ったコップを見て少し呆れた様子だったが、ネコが居なくなった状況を離し始めた。


「一昨日の夕ご飯の時間になって、さくら姫を呼んだんだけど、帰ってこないのよ。近所も探したの、でも見つからなくて・・」


「迷子ネコの捜索か。成功報酬で良いのか?」


「なに言ってるんだよ朝倉ちゃん。オレの友達から金取るなよ。これ解決したら、今までの未払い家賃の利息はちゃらにしてやるよ。」


くそ、金でオレを動かそうってのか。まぁ、話に乗ってやるか。


「そうかよ。分かったよ。」


おばあちゃんはネコの写真を置いて帰って行った。


野良猫たちが集まってるのは・・・公園だよな。


近所の公園を3つ回ってみたが、さくら姫は居なかった。


後は、どこだろう、あ、近所でも有名な、野良猫を可愛がって餌をあげてる家があったっけかな。そこも見ておこうか。



入れ替わり立ち代わり色んなネコがやってきて、餌を食べていくんだな。


こいつら、この家へ来れば餌が食べられることを知ってるんだ。


オレは事務所のガスも止まって、飯も一昨日、20円で買ったパンの耳の切り落としを食べたのが最後だってのに、ネコのくせに生意気だぜ。


おっと、このネコ、写真と一緒じゃないか!


「さくら姫!」


「うにゃ?」


ネコが振り返った。やっぱりさくら姫だ。


ゆっくりと餌台に近づくと、家主が出てきた。


「何ですか、貴方?」


「いや、怪しいものじゃないんですよ。実は迷子ネコを探してまして、このネコなんですけどね」


さくら姫の写真を見せる。


「あら、この子、最近来るようになったのよ?」


「飼い主が探してるんで、連れて帰って良いですかね?」


「もちろん、心配されてるでしょう。早く連れて帰ってあげて。」


ネコ缶を開けて、さくら姫の気を引いて、そのままキャリーケースに入れた。


「じゃ、どうも。あ、あと、これは他のネコちゃん達にどうぞ。」


家主にネコ缶を渡した。


そのまま、さくら姫の飼い主のおばあちゃん宅へ届けた。



ぷつっ。



映画が終わるように映像が消えた。


え? 今のは何?


なんとなく、オッチャンの話と同じような内容のストーリーだったけど、詳細は全然違う、というか、全く違うけど、大きく、さくら姫を救出?した、って話は一緒ね。


まさか、これって、オッチャンの記憶?


確かめてみよう。


「ねぇ、あたしのイメージでは、姫って、白いロングヘアなんだけど、さくら姫もそうだった?」


「あぁ、白いロングヘアだったな。典型的な姫ってことだな。」


「あと、最近の姫の特徴としてはネコ耳? 今時ネコ耳じゃない姫なんて居ないもんね。」


「もちろん、ちゃんとネコ耳だったさ。」


ビンゴ。今再生されたのは、オッチャンの記憶だ。


「ねぇ、さくら姫って、ネコでしょ? 野良猫を世話するおばちゃんの家で保護したんでしょ?」


「・・え。えぇっ?」


オッチャン、動揺してるよ。こんな単純な引っかけ質問に引っかかるなんて、相当頭は良くなさそうね。逆に、これだけ単純で、頭良くないんだから、悪いことしようとしても出来ないよね。


「ち、ちょっとキミ、なんで、さくら姫を保護したのが、野良猫を世話してるおばちゃんの家だってわかったの?」


正直に話してみるかな。


「いま、貴方と握手したでしょ。そしたら、映像が見えたの、映画みたいに。たぶん、貴方の記憶なんだと思うよ。」


「え?オレの記憶?」


「たぶんね。貴方が見てたもの、聞いたこと、喋ったことだけじゃなくて、貴方が考えてたてた事も、貴方の声でナレーションみたいに説明されてたわ。」


「えぇ? オレが考えてたことまで分かったのか?」


「そうね、例えばね、ガスが止められててお茶も出せないから、水道水をコップに入れて出したんでしょ? 貴方がそう説明してくれたわ。」


「げげっ。それは確かにオレの記憶みたいだな。それはキミの能力なのか? それとも魔法とかか?」


「いいえ、あたしはそんな能力は無いわ。そうだ、もう一回試してみましょうか。」


もう一度オッチャンの両手を握ってみた。

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