盗み聞き
凛子
第1話
休憩室にいる男性社員は、好みの女性の髪色について話しているようだ。
「おれは茶色。柔らかそうだし、何か性格までふんわり優しそうな感じするから」
「オレは金までオッケーかな。因みにオレは、気が強い女が結構好きかも」
「僕は……何て言うんでしたっけ、あれ。チラッと見えるピンクとか可愛いと思うけど」
「ああ、あれか? インナーカラーってやつ」
「そう、それです!」
「俺は絶対黒だな」
福永まどかは、ひとりカフェラテを飲みながら聞き耳を立てていた。
「おれは水色かな」
「オレは赤!」
「僕はやっぱピンクですね」
やはり男が集まるとろくな話をしない。
『デート』や『初めて』などのワードが飛び交っていたかと思うとヒソヒソ話を始め、いつの間にか下ネタに移っていた。
その中に中原康生がいると思うと、少し複雑な気分ではあった。
彼は、まどかの意中の人だ。
「お前ピンク好きだなあ」
「ピンク髪でピンクなんてたまんないですよ。男心擽られまくり」
「康生は?」
「え、俺?」
そんな馬鹿げた話だったが、それでもやはり気になって仕方がなかった。
「俺はやっぱ……」
まどかは持ち上げたカップの柄を握りしめ固唾を飲んだ。
「黒」
「「「絶対言うと思った!!」」」
「だって黒って大人っぽくていいじゃん」
「てかさ、黒が似合う女って何か色っぽくね? うなじのチラ見せとかたまんねえよな」
「「「いい! すげえ好き!!」」」
それを聞いたまどかは、がっくり肩を落とした。小柄で童顔の容姿が、大人っぽさとはかけはなれ過ぎていたからだ。
黒髪の女であることがせめてもの救いだろうか。
「あの……もし良かったら、江戸川の花火大会、一緒に行かない?」
康生から突然声をかけられたのは、それから数日後のことだった。
「え?」
「いや、駄目ならいいんだけど……」
まどかの返事も聞かないうちから、康生は無理強いしない姿勢を見せた。
「いえ、特に予定はありませんけど」
このチャンスを絶対に逃すまいと、まどかは食い気味に答えた。
「良かった! じゃあ時間と待ち合わせ場所は追って連絡するから」
「はい、わかりました」
連絡先を交換したまどかは、手にしたスマホが心臓の拍動と連動しているのを感じながら、足早に去っていく康生の後ろ姿を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます