episode 1
闇の人種
第2話
――東京
吉原に来ている。
大きな風俗街だ。
最後にここに来た時から3年が経った。苦しい生活だったが、この時を待ちわびて必死に生きてきたことに違いはない。
「ほら、早く迎え行ってやんな」
吉原の高級ソープで働く前、彼女は大阪の飛田新地で働いていた。
そこからこっちに来てもずっと俺たちの世話をしてくれるおやっさん。ああ、東条さん。
東条さんの高級外車から降りて、約束の場所に向かう。彼女は今日この仕事を辞めるのだ。
「黝(ネロ)?」
突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには見覚えのある顔の……彼女がいた。
この3年間お互い会っていなかったから、とても変わったように思う。綺麗になった。いや、彼女はもともと端正な顔立ちをしていたのだが。
「珀(ハク)、久しぶり」
「黝! 会いたかった……!」
飛んでくるように抱きつかれ、思わず身体がぐらつく。抱きしめた珀の身体はとても細く、少しだけ震えていた。
寒いからか珀が腕を掴んだまま離さないので、その状態で東条さんの車まで歩いた。
東条さんは車を降りて煙草を吸いながら携帯を弄っているようだったが、俺の姿に気付いてそれらをやめた。
「遠慮しなくても、娘さんへの連絡ですよね」
「ったく、お前は大人をよく見やがって」
「文字を打って削除して、結局送信できないことも知ってます」
「お、お前内容まで見てないだろうな?」
「見てませんよ。珀、乗りな」
「おう、早く乗りな。そんな薄着してたら風邪ひいてしまう」
確かに薄着だ。ノースリーブのワンピースに薄手の羽織り。
今の時期はちょうど梅雨。人によっては平気かもしれないが、夜は少し肌寒い。
珀を左後部座席に乗らせて、俺はその右隣に座った。
車が発進する。
行き先は事務所だ。
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